老後の生活・家族

親の介護で仕事を辞める前に|介護離職を防ぐ制度と仕事との両立

親の介護をしながら働き続ける。

実際にその状況になると、想像していた以上に大変なことがあります。

親の受診や入退院、介護サービスとの調整、急な体調不良への対応。

自宅では見守りやトイレ介助が必要になり、夜間も気が抜けないことがあります。

しかも親の介護が始まる子世代は、まだ仕事の中心を担っている50代前後であることも少なくありません。子育てと重なり、仕事・子育て・介護を同時に抱える人もいます。

実際、2022年時点で家族の介護をしている人は629万人。そのうち、仕事をしながら介護している人は約365万人にのぼります。

介護は、働く世代にとって決して他人事ではありません。

出典:内閣府 男女共同参画局「令和6年版 男女共同参画白書」

この記事でわかること
  • 介護離職は実際にどれくらい起きているのか
  • 2025年4月から仕事と介護の両立支援がどう変わったのか
  • 介護休業と介護休暇はどう使い分けるのか
  • 仕事を辞める前に、どこへ相談し何を準備すればよいのか

1.介護離職は年間約10万人。働きながら介護する人は増えている

仕事をしながら家族の介護をしている人は、一般に「ビジネスケアラー」「ワーキングケアラー」などと呼ばれています。

2022年の就業構造基本調査などによると、

  • 家族を介護している人:約629万人
  • そのうち働いている人:約365万人
  • 介護・看護を理由に1年間で離職した人:約10.6万人

となっています。

介護離職が「急増している」というより、年間約10万人という高い水準が続く一方、働きながら介護する人そのものが増えていると考えた方が実態に近いでしょう。

2012年と比べると、家族を介護しながら働いている人は約74万人増えています。

出典:総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」内閣府 男女共同参画局「令和6年版 男女共同参画白書」

今後、この問題はさらに大きくなると予測されています。

経済産業省は、2030年には仕事をしながら家族を介護するビジネスケアラーが約318万人となり、介護に伴う労働生産性の低下などによる経済損失が約9兆円に達する可能性があると推計しています。

「9兆円」は現在発生している介護離職だけの損失ではありません。
2030年について、介護による欠勤・労働時間の減少・仕事のパフォーマンス低下などを含めて推計した経済損失です。

ビジネスケアラーと経済損失の推計

出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」

私が介護施設で働いていても、利用者さんのご家族から、

「仕事があるので平日の受診には付き添えない」

「急に休むことが増えて職場に申し訳ない」

「夜も介護があって疲れている」

といった話を聞くことがあります。

特に介護度が高くなると、家族の負担は大きくなります。

2025年の国民生活基礎調査では、同居する主な介護者のうち「ほとんど終日」介護している割合は、

  • 要介護3:29.5%
  • 要介護4:48.5%
  • 要介護5:54.2%

でした。

介護が重くなってから仕事との両立方法を考えるのでは、対応が間に合わなくなることがあります。

そのため、早い段階から制度や相談先を知っておくことが重要です。

出典:厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」

2.仕事を辞める前に知ってほしいこと

介護が始まると、

「自分が仕事を辞めて介護するしかない」

と考えてしまうことがあります。

しかし、介護離職はできるだけ早急に決断しない方がよいでしょう。

仕事を辞めれば、当然ながら収入は減ります。

そして介護は、数か月で終わるとは限りません。

大切なのは、「自分が介護できる時間を増やすこと」だけではありません。
仕事を続けながらでも介護が回る仕組みを作ることが重要です。

そのために、

  • 会社の両立支援制度を使う
  • 地域包括支援センターやケアマネジャーへ相談する
  • 介護保険サービスを使う
  • 家族で役割を分担する
  • 福祉用具や住宅改修で介助量を減らす

といった方法を組み合わせていきます。

介護を「家族だけで行うもの」と考えないことが重要です。

3.2025年4月から会社の「仕事と介護の両立支援」が強化された

2025年4月1日から育児・介護休業法が改正され、介護離職を防ぐための企業側の対応が強化されました。

特に知っておきたいのは、次の3点です。

3-1.介護が始まったと申し出た人への個別説明が義務化

労働者が、

「家族の介護が必要になりました」

と会社へ申し出た場合、会社はその人に対して、

  • 介護休業などの制度
  • 制度の申出先
  • 介護休業給付金

などを個別に周知し、利用する意向があるか確認することが義務となりました。

3-2.40歳前後で介護制度の情報提供が行われる

介護が始まってから初めて制度を知るのでは遅いことがあります。

そのため企業には、労働者が40歳になる前後の時期に、

  • 介護休業
  • 仕事と介護の両立支援制度
  • 申出先
  • 介護休業給付金

などについて情報提供することが義務づけられました。

3-3.制度を利用しやすい職場づくりも義務化

介護休業などを申し出やすくするため、事業主は次の①~④のいずれか1つ以上を実施する必要があります。

① 介護休業・両立支援制度に関する研修
② 相談窓口などの相談体制の整備
③ 自社で制度を利用した事例の収集・提供
④ 制度利用を促進する会社方針の周知

ここは誤解しやすいところですが、すべての企業に「介護相談窓口の設置」が義務づけられたわけではありません。

上記4つのうち、少なくとも1つを実施する仕組みです。

さらに2025年4月からは、介護をする労働者がテレワークを選択できるよう、企業が環境を整えることも努力義務となりました。

出典:厚生労働省「育児・介護休業法 2024年改正」

4.介護休業は「自分で介護する93日間」ではない

仕事と介護の両立制度の中でも代表的なのが介護休業です。

対象となる家族1人につき、

通算93日まで、最大3回に分けて取得できます。

例えば、

  • 退院直後に1回目
  • 介護サービスを組み直す時に2回目
  • 状態が大きく変化した時に3回目

といった使い方も考えられます。

ただし、ここで非常に重要なのが介護休業の使い方です。

介護休業の93日間を、家族が直接介護するだけの期間にしないこと。
介護休業は、仕事へ戻ったあとも介護を続けられる体制を整えるために活用することが重要です。

例えば休業期間中に、

  • 要介護認定を申請する
  • 地域包括支援センターへ相談する
  • ケアマネジャーを決める
  • 訪問介護やデイサービスを調整する
  • 福祉用具を導入する
  • 住宅改修を検討する
  • 家族の役割分担を決める
  • 勤務時間や働き方について会社と相談する

といった準備を進めていきます。

介護保険の「要介護認定」がなくても利用できる

「親はまだ要介護認定を受けていないから、介護休業は使えないのでは?」

と思う方もいるかもしれません。

しかし、介護保険の要介護認定を受けていること自体が介護休業の条件ではありません。

負傷・病気・心身の障害などにより、2週間以上にわたって常時介護が必要な状態など、育児・介護休業法上の基準によって判断されます。

対象になるか分からない場合は、自分だけで判断せず会社の担当部署などへ確認しましょう。

介護休業給付金を受け取れる場合もある

雇用保険の被保険者で一定の条件を満たしている場合、介護休業中には介護休業給付金を受け取ることができます。

給付額は原則として、

休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%

です。

ただし、支給には雇用保険の加入期間などの条件があり、休業中に会社から賃金が支払われる場合などは給付額が変わることがあります。

出典:厚生労働省「介護休業制度」

5.「介護休暇」「時短」「残業免除」も使える

仕事と介護を両立する制度は、介護休業だけではありません。

むしろ長期間の介護では、日常的にはこちらの制度を組み合わせることが重要です。

制度 主な内容 使い方の例
介護休業 対象家族1人につき通算93日・3回まで 退院後の介護体制づくり
介護休暇 家族1人なら年5日、2人以上なら年10日。時間単位も可能 通院付き添い、ケアマネとの面談
短時間勤務等 時短勤務・フレックス・時差出勤・介護費用助成など 日常的に勤務時間を調整
残業免除 一定の条件で所定外労働の免除を請求できる 夕方以降の介護に対応
時間外労働の制限 原則として月24時間・年150時間を超える時間外労働を制限 長時間労働を減らす
深夜業の制限 一定の条件で22時~翌5時の勤務を制限 夜勤のある仕事を調整

特に「介護休業」と「介護休暇」は別の制度です。

介護休暇は、年次有給休暇とは別に、

  • 病院への付き添い
  • 介護サービスの手続き
  • ケアマネジャーとの打ち合わせ

などに利用できます。

なお、介護休暇を有給とするか無給とするかは会社の規定によって異なります。

出典:厚生労働省「仕事と介護の両立」

6.介護が始まったら、まず3か所へ相談する

介護が必要になったとき、家族だけで解決方法を考える必要はありません。

早めに次の場所へ相談しましょう。

① 勤務先

まず、人事・労務担当者や上司などに、

「家族の介護が始まった」

ことを伝えます。

介護休業だけでなく、介護休暇、短時間勤務、残業免除など、自分が利用できる制度を確認してください。

② 地域包括支援センター・市区町村

「介護保険をまだ使っていない」

「何から始めればいいか分からない」

という段階なら、地域包括支援センターが代表的な相談窓口です。

要介護認定の申請や利用できるサービスについて相談できます。

③ ケアマネジャーや病院の相談窓口

すでに介護保険を利用している場合は、担当ケアマネジャーに、

「家族が仕事を続けながら介護したい」

という希望を伝えてください。

ここは非常に重要です。

単に、

「どのサービスが空いていますか?」

ではなく、

「平日の日中は仕事がある」
「朝は家族が対応できない」
「夜間の介助が負担になっている」

など、仕事と介護のどこで困っているのかまで具体的に伝えることで、サービスの組み方も変わってきます。

入院中であれば、医療ソーシャルワーカーや退院支援部門、患者サポートセンターなどへ早めに相談しておきましょう。

7.介護サービスや福祉用具で「家族がやる介護」を減らす

介護サービスを利用する目的は、単に家族の代わりに介護してもらうことだけではありません。

本人ができることを続けながら、家族に過度な負担が集中しない生活を作ることも重要です。

例えば、

  • デイサービス・デイケア
  • 訪問介護
  • 訪問看護
  • ショートステイ
  • 福祉用具
  • 住宅改修

などがあります。

例えば、家族が毎回立ち上がりを抱えて介助している場合でも、手すりやベッドの高さ、動線などを調整するだけで介助量が変わることがあります。

理学療法士として現場で感じるのは、「家族が頑張る」ことだけが介護ではないということです。

本人の能力、住環境、福祉用具、介護サービスなどを組み合わせ、家族が無理なく続けられる形を考える必要があります。

介護保険サービスについてはこちらの記事でも解説しています。

介護が必要になったら、介護保険サービスを使おう!

8.まとめ|介護離職を決める前に「続けられる仕組み」をつくろう

親の介護が始まると、

「自分がやらなければ」

と考え、仕事を減らしたり辞めたりする方向へ気持ちが傾くことがあります。

しかし介護は長期化する可能性があります。

だからこそ、最初から家族だけで抱えるのではなく、

  • 会社の両立支援制度を確認する
  • 地域包括支援センターなどへ相談する
  • 介護保険サービスや福祉用具を利用する
  • 家族の役割を整理する

ことが重要です。

介護休業の93日間を「家族が介護する93日」にするのではなく、「93日後も仕事と介護を両立できる体制をつくる期間」と考えてみてください。

仕事を辞めるという選択肢が必要になるケースもあります。

しかし、制度やサービスを十分に知らないまま介護離職を決めるのは避けたいところです。

まず相談する。制度を知る。そして、家族だけで介護しなくても生活が回る方法を考える。

介護が始まったときに、最初に取り組みたいポイントです。

参考資料