病気・体の変化

認知症による行方不明を防ぐには?

「ちょっと目を離した間に、認知症の親が家からいなくなった」。家族にとって、想像するだけでも不安になる出来事です。無事に帰ってこられるか、事故に遭っていないかと、さまざまな心配が浮かぶでしょう。

認知症による行方不明は、本人の命に関わるとともに、見守る家族の生活にも大きく影響します。だからといって、一日中、一瞬も目を離さずに暮らすことは現実的ではありません。

この記事では、行方不明の現状や過去の鉄道事故を振り返りながら、本人の安全と家族の暮らしを一緒に守るための備えを考えます。

まずは結論!ぴんころポイント🐢

行方不明に気づいたら、帰宅を待たずに警察へ連絡する。
GPS・センサー・地域の見守りを組み合わせて備える。
家族が休める介護体制も、本人の安全を守る大切な対策。
本人が外出する理由や気持ちを理解し、地域で支える。

認知症による行方不明は、年間1万7,000人を超えている

警察庁によると、2025年(令和7年)の認知症行方不明者数は1万7,345人でした。前年より776人減少したものの、依然として高い水準にあります。

元の記事で取り上げた2023年(令和5年)は、統計を取り始めた2012年以降で最多の1万9,039人でした。その後の推移も含めて整理すると、次のようになります。

認知症行方不明者数の推移
年 人数
2023年(令和5年) 19,039人
2024年(令和6年) 18,121人
2025年(令和7年) 17,345人

出典:警察庁「令和7年における行方不明者届受理等の状況」をもとに筆者作成。

下のグラフは、2023年までの推移です。
認知症に係る行方不明者数の推移(2023年までの資料)

出典:警察庁「令和5年における行方不明者の状況」。2023年までの資料です。

この統計は、警察に届け出があった行方不明者について集計したものです。

さらに、2025年中に死亡が確認された認知症行方不明者は573人でした。

出典:警察庁・2025年の資料、2023年の資料。

「徘徊」と呼ばれる行動にも、本人なりの理由がある

認知症の人がひとりで外出し、道に迷うことは、従来「徘徊」と呼ばれてきました。しかし、周囲からは目的が分からなくても、本人には外出する理由がある場合があります。

愛知県大府市では、本人の気持ちや目的を尊重するため、行政内部で「徘徊」という表現を原則使わず、「ひとり歩き」「外出中に行方不明になる」などに言い換えています。本記事でも、こうした考え方を踏まえて説明します。

出典:大府市「『徘徊(はいかい)』という言葉を使用しません」。

また、行方不明への備えは、認知症が重くなってから考えればよいというものでもありません。東京都健康長寿医療センター研究所の資料では、家族から見て認知機能の低下が軽い段階でも、行方不明になる場合があると報告されています。

出典:東京都健康長寿医療センター研究所「認知症による行方不明―いのちを守るために必要なこと―」。

本人の気持ちと、安全の両方を考える。
どこへ行こうとしているのか、何が気がかりなのかを聞き、付き添いや見守りの方法を考えることが出発点です。

鉄道事故の裁判が問いかけた、家族の見守りの限界

家族が心配するのは、行方が分からなくなることに加え、事故に巻き込まれたり、誰かに損害を与えたりすることです。その問題が広く知られるきっかけとなった事故がありました。

2007年12月、JR共和駅(愛知県大府市)で認知症の高井良雄さん(当時91)が電車にはねられ死亡する事故が起きました。JR東海は高井さんの家族に約720万円の損害賠償を請求。

引用:全日本民医連「長男が語る『認知症鉄道事故裁判』」。

2016年3月1日、最高裁は、この事案の妻と長男について損害賠償責任を認めない判断を示しました。同居する配偶者や子どもであるというだけで、当然に法的な監督義務を負うとはしていません。

家族の生活・健康状態、本人との関わりや介護の実態などを踏まえた判断であり、認知症に関わる事故すべてで家族の責任が否定されるという意味ではありません。

出典:最高裁判所第三小法廷・2016年3月1日判決。

この事故を考えるうえで、長男の次の言葉は重く響きます。

父はデイサービスから帰宅した夕方、一緒にいた母(当時85)が6~7分まどろんだ間に、道路に面した扉から出て行ったようです。その扉から出て行ってしまうのは初めてのことでした。家の別の玄関扉は父が近づくとチャイムが鳴るようになっていて、母は夜な夜なチャイムに起こされる生活を送っていたのです。目を離した母を責めることはできません。

引用:全日本民医連「長男が語る『認知症鉄道事故裁判』」。

家族は対策を取っていなかったわけではありません。チャイムを設置し、夜間も気を配りながら介護を続けていました。それでも、わずかな時間に事故は起きています。

高齢の配偶者が介護を担う「老老介護」では、介護する側にも体力や健康上の制約があります。家族に「もっと気をつけて」と求め続けるだけでは、見守りを続ける生活そのものが成り立たなくなってしまいます。

家族が眠れること、休めることも、本人を守るための条件です。

行方不明に気づいたら、すぐに警察へ連絡する

東京都健康長寿医療センター研究所の資料では、行方不明から発見までの時間が長いことと、発見時の死亡との関連が報告されています。

調査では当日・翌日に生存して発見される例が多く、3日目以降は生存例が少なくなっていました。死亡原因としては、溺死や低体温症が多く報告されています。

これは過去の事例を調べた結果であり、「翌日までは安全」という意味ではありません。いなくなったことに早く気づき、捜索開始までの時間を短くすることが大切です。

出典:東京都健康長寿医療センター研究所の資料。

今まさに行方が分からない場合は、110番へ。
「認知症があり、行方が分からなくなった」と伝え、最後に見た時刻・場所・服装などを説明してください。

連絡時に伝えたいことを、普段からまとめておく

慌てていると、いつも履いている靴や当日の服装さえ思い出せないことがあります。家族で共有するメモとして、次の情報をまとめておくと役立ちます。

  • 最近の顔写真、氏名、年齢、身長などの特徴。
  • 最後に姿を見た時刻・場所、当日の服装・靴・持ち物。
  • 認知症があること、持病や服薬、歩行や会話の状態。
  • よく行く場所、以前住んでいた場所、過去に見つかった場所。
  • GPSの有無と位置情報、家族の連絡先。

まず分かる情報から伝え、詳しい内容は後から補えばよいでしょう。GPSで位置が分かった場合も警察と共有し、線路や河川など危険な場所には自分で立ち入らないでください。

地域の見守りネットワークやケアマネジャーなどにも協力を求め、無事に見つかったら、捜索をお願いした先へ連絡します。連絡先を事前に決めておくと、家族が別々に動く場合も情報を共有しやすくなります。

GPS・センサー・地域の協力を組み合わせて備える

元の記事で紹介した「GPSやセンサーを活用する」「近所や地域の協力を得る」「行きそうな場所を把握する」という備えは、今も大切です。それぞれの役割を整理すると、何を準備すればよいかが見えてきます。

見守り対策の役割と確認点
対策 役割・確認点
玄関などのセンサー 外出の動きに気づくためのもの。通知を誰が受け、対応するかも決める。
GPS機器 外出後の位置を探す手がかり。持ち歩けるか、充電や通信が保たれるかを確認する。
連絡先の記載・見守りシール 発見後の身元確認に役立てる。靴や持ち物への付け方、自治体の配布制度を確認する。
地域の見守りネットワーク 本人の情報を事前登録し、発見・保護につなげる。対象者と利用手順を自治体へ聞く。
行き先・生活歴の共有 よく行く店や散歩道などを、家族や支援者の間で共有する。

長野県警察でも、事前登録による見守りネットワークや、着衣・靴への記名、QRコード付き見守りシールなどの活用を案内しています。

地域によって制度が異なるため、お住まいの自治体や地域包括支援センターへ確認してください。

出典:長野県警察「大切な人の『おかえり』を支えるために」。

GPSは、本人が使い続けられるかを確かめる

GPSを選ぶときは、機能の多さに加えて、普段の生活で使えるかを確認しましょう。かばんに入れていても、そのかばんを持たずに外出すれば、本人の位置は分かりません。靴に入れる場合も、別の靴で出かける可能性があります。

導入する際は、本人に目的を説明し、気持ちや意向を確かめます。そのうえで、誰が充電し、誰が通知を確認し、誰が迎えに行くのかまで決めておくと、機器を生活の中で活用しやすくなります。

本人の意向への配慮についても、長野県警察の案内で示されています。

GPS機器を収納できる靴の例

元の記事で紹介した「うららかGPSウォーク」のように、小型GPS機器を収納できる介護シューズもあります。

商品紹介:うららかGPSウォーク トレイル【PR】


GPS機器を収納できる介護シューズ・うららかGPSウォーク トレイル

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GPS端末は付属していません。販売ページでは、GPS機能の利用には別途マモエルGPSの契約が必要とされています。購入前に、対応端末・契約条件・費用と、本人の足に合うサイズを確認してください。

GPSは早期発見を助ける道具です。機器だけですべてを解決しようとせず、家族や地域の協力と合わせて使うことが大切です。

介護する人が休める仕組みをつくる

夜中の外出が心配で眠れない、買い物や自分の通院にも行けない。そんな状態が続いているなら、見守りの機器を増やすことと同時に、介護の担い手やサービスの組み合わせを見直す必要があります。

介護者が体調を崩すと、それまで続けていた自宅での生活が難しくなることもあります。本人の暮らしを支えるには、介護する側の健康や生活も守らなければなりません。

ケアマネジャーには、「介護が大変です」だけでなく、「夜に何度も起きる」「一人で見守る時間が長い」「自分の通院ができない」など、困っている場面を具体的に伝えてください。相談先が分からない場合は、地域包括支援センターに連絡しましょう。

例えば、施設に短期間宿泊するショートステイは、家族の身体的・精神的な負担を軽減することも目的としています。本人に合う事業所や利用方法を相談し、家族が休む時間を予定に組み込むことも選択肢です。

出典:厚生労働省・介護サービス情報公表システム「短期入所生活介護(ショートステイ)」。

「自分が倒れるまで頑張る」を、介護の前提にしない。
睡眠や通院の時間が確保できているかも、支援者と一緒に確認しましょう。

地域で支え合う、認知症サポーターの取り組み

地域で暮らす認知症の人と家族を支えるには、近所の人やお店の人など、日常で接する人たちの理解も欠かせません。そのための取り組みの一つが、認知症サポーターの養成です。

認知症サポーターは、認知症について学び、地域や職場で本人や家族にできる範囲の手助けをする人です。養成講座は、地域住民に加え、金融機関やスーパーの従業員、学生なども受講しています。

出典:厚生労働省「認知症サポーター」。

認知症であることを周囲に知られたくない、迷惑をかけたくないと、家族が相談をためらうこともあるでしょう。だからこそ、周囲が偏見を持たず、普段から声をかけられる関係をつくることに意味があります。

まとめ

認知症による行方不明への備えは、本人の命を守り、家族が暮らしを続けるためのものです。行方不明時にすぐ連絡できる準備、使い続けられる見守り機器、地域の協力、そして家族が休める介護体制を組み合わせて考えましょう。

まずは、最近の顔写真と緊急連絡先を家族で共有し、自治体の見守り制度を確認するところから始めてみてください。本人がどのように暮らしたいか、家族が何に困っているかも、支援者に伝えておきましょう。

おたっしゃ編集後記✏️🐢

認知機能が低下した方々、みなさんわりと普通に散歩したり、ご近所の方と交流したりしています。そういった活動や参加をなるべく阻害せず、「危ないから」といった理由で閉じ込めたくないなと思います。一方で、道路にはみ出して歩いていたり、線路に立ち入ってしまうなんていう方もいます。
認知症の方への偏見ではなく「理解」が進み、声を掛け合える世の中になればいいと思います。誰でも必ずご近所さんや家族など認知症の方と関わる機会はあるのでは。そういう意味でも認知症サポーターの養成は非常に重要な取り組みだと感じます。

参考文献・出典

警察庁「令和7年における行方不明者届受理等の状況」(2026年公表)。

警察庁「令和5年における行方不明者の状況」(2024年公表)。

東京都健康長寿医療センター研究所「認知症による行方不明―いのちを守るために必要なこと―」(2022年3月)。

最高裁判所第三小法廷・2016年3月1日判決(平成26年〈受〉第1434号・第1435号)。

全日本民医連「長男が語る『認知症鉄道事故裁判』」(2018年7月31日)。

大府市「『徘徊(はいかい)』という言葉を使用しません」。

長崎市「認知症のひとり歩きにより行方不明になられたら」。

長野県警察「大切な人の『おかえり』を支えるために」。

厚生労働省・介護サービス情報公表システム「短期入所生活介護(ショートステイ)」。

厚生労働省「認知症サポーター」。

商品仕様の確認:楽天市場・ハナサンテラス「うららかGPSウォーク トレイル」販売ページ。

本記事は、公的機関の資料や研究論文などの情報をもとに、現役理学療法士が一般向けに解説したものです。個別の症状や治療、介護、制度利用などについては、医師・医療専門職・自治体などの専門機関へご相談ください。