「最近、親の歩くスピードが遅くなった」
「物忘れも増えてきたけれど、このまま介護が必要になるのだろうか?」
親が70代、80代になると、こんな不安を感じることも増えてきます。
では実際に、何がきっかけで介護が必要になる人が多いのでしょうか。
厚生労働省のデータを詳しく見ていくと、単純な「原因ランキング」だけでは見えてこない重要なことがあります。
- 介護が必要になった主な原因は、全体では認知症16.6%、脳卒中16.1%、骨折・転倒13.9%
- 一方、要支援では関節疾患・高齢による衰弱・骨折転倒が上位を占める
- 要介護4・5では、脳卒中が原因の第1位になる
- 介護予防では「病気を防ぐ」だけでなく、足腰・生活機能・社会とのつながりを保つことも重要
この記事で特に知っていただきたいのは、「介護の入り口」と「重度の介護につながる原因は同じではない」ということです。
2022(令和4)年の国民生活基礎調査では、要支援者の原因第1位は「関節疾患」19.3%でした。一方、要介護4では「脳血管疾患(脳卒中)」が28.0%、要介護5でも26.3%で第1位です。
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
すべての要介護状態を防げるわけではありません。しかし、将来のリスクを下げるためにできることは少なくありません。
この記事では、要介護になる原因を厚生労働省のデータから整理し、「何を予防すればよいのか」まで分かりやすく解説します。
1.要介護になる原因ランキング|1位は認知症
まずは全体像から見てみましょう。
厚生労働省の2022(令和4)年「国民生活基礎調査」によると、介護が必要となった主な原因の上位は次のようになっています。
| 順位 | 主な原因 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 認知症 | 16.6% |
| 2位 | 脳血管疾患(脳卒中) | 16.1% |
| 3位 | 骨折・転倒 | 13.9% |
| 4位 | 高齢による衰弱 | 13.2% |
| 5位 | 関節疾患 | 10.2% |
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
認知症・脳卒中・骨折転倒の3つだけで、全体の46.6%を占めます。
しかし、ここで「認知症と脳卒中と転倒だけ予防すればいい」と考えるのは少し早いです。
なぜなら、介護度によって原因の順位が大きく変わるからです。
2.実は「要支援」と「要介護」で原因が違う
ここがこの記事で最もお伝えしたいポイントです。
比較的軽い「要支援」の段階だけを見ると、ランキングは次のように変わります。
| 順位 | 要支援になった主な原因 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 関節疾患 | 19.3% |
| 2位 | 高齢による衰弱 | 17.4% |
| 3位 | 骨折・転倒 | 16.1% |
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
認知症や脳卒中ではなく、関節疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒が上位を占めています。
つまり、介護の入り口では、
「膝や腰が痛くて歩かなくなった」
「体力が落ちて買い物に行けなくなった」
「転んでから外出するのが怖くなった」
といった足腰や生活機能の低下が大きく関係していることが分かります。
一方で、介護度が重くなると様子が変わります。
| 介護度 | 第1位の原因 | 割合 |
|---|---|---|
| 要支援 | 関節疾患 | 19.3% |
| 要介護1 | 認知症 | 26.4% |
| 要介護4 | 脳血管疾患 | 28.0% |
| 要介護5 | 脳血管疾患 | 26.3% |
介護予防では、「病気を防ぐこと」と同時に、足腰や生活機能を落とさないことが重要です。
単純な「原因トップ3」だけを見ていると、この視点を見落としてしまいます。
3.要介護原因1位「認知症」|生活そのものに支援が必要になる
介護が必要となった主な原因の第1位は認知症で16.6%です。
認知症が進行すると、単に「物忘れが増える」だけではありません。
たとえば、
- 薬を飲んだか分からなくなる
- 買い物やお金の管理が難しくなる
- 食事の準備ができなくなる
- 道に迷うようになる
- 着替えや入浴などに支援が必要になる
など、日常生活そのものに影響が広がることがあります。
そのため、身体が比較的元気でも介護が必要になることがあります。
一方、認知症は「年を取ったら完全に避けられないもの」と決まっているわけでもありません。
2024年の医学誌『The Lancet』の委員会報告では、難聴、高血圧、運動不足、糖尿病、社会的孤立、視力低下など、14の修正可能なリスク因子が示されています。
これらへの対策によって、世界の認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性があると推計されています。
「45%の人が生活改善だけで認知症にならない」という意味ではありません。集団全体でみたリスク因子の寄与を推計した数字であり、個人の発症を保証するものではありません。
難聴を放置しない、運動する、人と交流する、血圧や糖尿病を管理する。
こうした対策は、認知症だけではなく健康全体を守ることにもつながります。
▶ 過去記事:加齢性難聴と認知症の関係についての記事
4.要介護原因2位「脳卒中」|一度の発症で生活が大きく変わることがある
第2位は、脳血管疾患(脳卒中)16.1%です。
脳卒中には、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」などがあります。
ただ、介護予防という視点では病名を細かく覚えることより、脳卒中は一度の発症で生活が大きく変わる可能性があることを知っておく方が重要です。
脳のどこが障害されるかによって、
- 歩く
- 立ち上がる
- トイレに行く
- 着替える
- 食べる・飲み込む
- 話す・理解する
- 物事を判断する
といった日常生活のさまざまな機能に影響する可能性があります。
厚生労働省の調査でも、脳卒中は要介護4で28.0%、要介護5で26.3%と、どちらも原因の第1位です。
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
脳卒中は「介護になる人が多い病気」というだけでなく、重い介護状態につながる原因としても重要です。
だからこそ、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などのリスクを放置しないことが大切です。
血圧などの治療目標は年齢や持病、薬、身体状況によって異なるため、自己判断で薬を調整せず、主治医と相談してください。
5.要介護原因3位「骨折・転倒」|転んだ後の悪循環に注意
第3位は骨折・転倒13.9%です。
骨折や転倒で怖いのは、ケガそのものだけではありません。
高齢になると、転倒をきっかけに次のような流れが起こることがあります。
転倒
↓
骨折・痛み
↓
入院・安静
↓
活動量が減る
↓
筋力・体力が低下する
↓
歩行や外出が難しくなる
↓
介護が必要になる
特に大腿骨近位部骨折などでは、歩行能力や生活機能に大きな影響が残ることがあります。
また、「転んだけれど骨折しなかったから大丈夫」とも限りません。
転倒後に、
「また転ぶのが怖い」
と外出を控え、その結果さらに足腰が弱くなるケースもあります。
理学療法士として高齢者の方をみていると、病気そのものだけでなく、「動かなくなったこと」をきっかけに生活範囲が狭くなっていくことは珍しくありません。
そのため転倒予防では、筋力やバランス能力だけを見るのではなく、
- 家の中の段差
- 夜間の照明
- 履物
- 服用している薬
- 視力
- 歩行状態
- 骨粗鬆症
などを総合的に考える必要があります。
▶ 過去記事:骨粗鬆症について詳しく解説
6.見逃せない「フレイル・関節疾患」|介護の入り口ではむしろ重要
ここまで認知症、脳卒中、骨折・転倒を紹介してきました。
しかし、介護予防という意味ではトップ3だけ見ていてはいけません。
要支援者に限ると、
- 関節疾患:19.3%
- 高齢による衰弱:17.4%
- 骨折・転倒:16.1%
となっています。
つまり、まだ比較的軽い段階では、足腰の問題や全身の衰えが介護の入り口になっているのです。
「高齢による衰弱」は単純に年齢だけで決まるものではありません。
年齢とともに、
食事量が減る
↓
筋肉が減る
↓
歩くのがおっくうになる
↓
外出が減る
↓
さらに体力が落ちる
という悪循環に入ることがあります。
こうした加齢に伴って心身の活力が低下した状態を「フレイル」と呼びます。
介護予防で大切なのは、「病気にならないこと」だけではありません。歩く、食べる、出かける、人と関わるといった生活そのものを保つことも重要です。
7.介護を遠ざけるために今からできる5つのこと
認知症には認知症の予防、脳卒中には脳卒中の予防……と別々に考えると、やることが多すぎてしまいます。
実際には、多くの対策が重なっています。
まずは次の5つの柱から考えてみてください。
① 血圧・糖尿病などを放置しない
高血圧や糖尿病などの管理は、脳卒中などの循環器疾患だけでなく、認知症リスクを考えるうえでも重要です。
健康診断で異常を指摘されているのに何年も放置している場合は、生活習慣だけで何とかしようとせず、医療機関に相談しましょう。
② 筋力と歩く力を落とさない
特別な運動だけが介護予防ではありません。
- 買い物へ歩いて行く
- 散歩する
- 階段を使う
- 家事を続ける
- 必要に応じて筋力トレーニングをする
など、日常生活の中で身体を使い続けることが重要です。
運動を一時的に頑張るより、生活の中に無理なく組み込む方が継続しやすくなります。
▶ 過去記事:自主トレや運動を習慣化する方法
③ 転びにくい家にする
本人の身体能力だけでなく、環境を変えることも重要です。
一度、自宅を歩きながら、
- 床に物やコードがないか
- 滑りやすいマットがないか
- 寝室からトイレまで暗くないか
- 階段や玄関に必要な手すりがあるか
- 履物が脱げやすくないか
を確認してみてください。
「本人が気をつければいい」だけでは、転倒予防として十分とはいえません。
④ 難聴や視力低下を放置しない
「耳が遠いのは年齢のせい」
「目が見えにくいけど、まだ生活できるからいい」
と放置されることがあります。
しかし、聴力や視力は人とのコミュニケーションや外出、活動量にも関係します。
2024年のLancet委員会でも、難聴と未治療の視力低下は認知症の修正可能なリスク因子として挙げられています。
聞こえにくさや見えにくさを感じたら、早めに耳鼻咽喉科や眼科などで相談しましょう。
▶ 過去記事:加齢性難聴と認知症|補聴器で予防できる?
⑤ 外出と人とのつながりを保つ
介護予防というと、「スクワットを何回やればいいですか?」という話になりがちです。
もちろん運動は大切です。
しかし、
買い物に行く。
友人と話す。
趣味の集まりに参加する。
地域活動や仕事を続ける。
こうした生活そのものが、身体活動や認知的な刺激、人との交流につながります。
「運動すること」だけを目的にするのではなく、その人が外へ出たくなる理由を持つことも大切です。
8.まとめ|介護予防は「病気」と「生活」の両方を見る
最後に、この記事のポイントを整理します。
- 介護が必要となった原因は、全体では認知症16.6%、脳卒中16.1%、骨折・転倒13.9%が上位
- 要支援では関節疾患19.3%、高齢による衰弱17.4%、骨折・転倒16.1%が上位
- 要介護4・5では脳卒中が原因の第1位になる
- つまり「介護の入り口」と「重度の介護につながる原因」は同じではない
- 介護予防では、病気の管理だけでなく筋力・歩行・転倒予防・視聴覚・社会参加も大切
介護予防とは、単に「病気にならないこと」ではありません。
病気を防ぎ、足腰を保ち、食べ、外に出て、人とのつながりを維持する。そうした日々の積み重ねが、自分らしい生活を長く続けることにつながります。
もちろん、事故や病気、遺伝的要因など、自分ではコントロールできないこともあります。
すべての要介護状態を防げるわけではありません。
だからこそ「介護になったら本人の努力不足」という話でもありません。
一方で、血圧を管理する、身体を動かす、転倒しにくい環境を作る、耳や目の問題を放置しない、人とのつながりを持つなど、今から変えられる部分もあります。
参考文献・出典一覧
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 IV 介護の状況」
- 厚生労働省「介護・高齢者福祉」
- Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet. 2024.
※本記事は厚生労働省などの公的情報および医学論文をもとに、現役理学療法士が一般向けに分かりやすく整理したものです。記事内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療・運動方法を示すものではありません。病気や身体機能について心配がある場合は、医師・理学療法士などの専門職へご相談ください。
