介護予防・フレイル

高齢者は働くと健康になる?フレイル・認知機能への影響と安全な働き方【2026年版】

「主人が定年後、家でゴロゴロしているだけ…」

「70歳を超えた親が働きたいと言っているけれど、身体は大丈夫だろうか?」

高齢の家族について、こんなことを考えたことはありませんか?

最近では、スーパーや介護施設、農業、サービス業など、さまざまな場所で高齢の方が働く姿を見かけます。一方で、「働いていた方がボケない」「仕事を辞めると一気に弱る」といった話を聞くこともあります。

では、本当に高齢になっても働き続けた方が健康なのでしょうか。

まずは結論!ぴんころポイント🐢

働くことは、心と体を保つきっかけになり得る

「働けば健康になる」とは限らない

大切なのは、年齢ではなく自分に合った働き方である

仕事を離れても、役割やつながりは持ち続けられる

2025年の日本では、就業率は65~69歳で54.5%、70~74歳で36.2%、75歳以上でも12.6%となっています。65歳以上の就業者数は22年連続で増加しており、「65歳を過ぎても働く」という選択は珍しいものではありません。

出典:内閣府「令和8年版 高齢社会白書」

一方で、働くことには健康面で好ましい関連が報告されている一方、仕事内容によっては身体への負担や転倒など、新たなリスクも生まれます。

この記事で考えたいのは、「何歳まで働くか」ではありません。

今の身体や生活に合った役割を、無理なく続けられるかという視点です。

65歳を過ぎても働く人は珍しくない

まず、日本の現状を見てみましょう。

2025年の年齢別就業率は次のとおりです。

年齢 就業率 おおよその割合
65~69歳 54.5% 2人に1人以上
70~74歳 36.2% 約3人に1人
75歳以上 12.6% 約8人に1人

就業者数では、65~69歳が392万人、70~74歳が284万人、75歳以上が266万人。合わせると65歳以上で約942万人です。

産業別では「卸売業・小売業」が131万人で最も多く、「医療・福祉」が122万人、「サービス業」が108万人と続きます。特に医療・福祉で働く65歳以上の人は、2015年と比べて64万人増えています。

出典:内閣府「令和8年版 高齢社会白書」

「働く高齢者が増えている」ことと、「高齢者にとって働きやすい仕事が増えている」ことは同じではありません。

再雇用、パート、アルバイト、自営業など働き方はさまざまで、勤務時間や収入、身体への負担にも大きな違いがあります。

高齢者の就業を考えるときは、単に「働いているかどうか」ではなく、どのような条件で働いているかまで見る必要があります。

高齢期の就労は健康にどう関係する?

研究全体を見ると、条件の合った就労は健康にプラスとなる可能性があります。

2021年のシステマティックレビューでは、64歳を超えて働くことによる健康への影響を調べた17研究がまとめられました。

全般的な健康状態や身体的健康については「好ましい影響」または「大きな悪影響なし」という研究が多かった一方、精神的健康については結果が一致していませんでした。

また、「パートタイム勤務や勤務時間を減らした人」、「仕事の質や報酬が低すぎない人」などで比較的好ましい結果がみられたとのことです。

出典:Baxter S, et al. Is working in later life good for your health? BMC Public Health. 2021.

ただし、ここには重要な注意点があります。

「働いている人の方が健康だった」=「働けば健康になる」ではありません。

レビューに含まれた研究の多くは観察研究です。働いたから健康になった、と因果関係まで断定することはできません。

新たに働き始めた人ではフレイル・抑うつが少なかった

2026年には、日本の地域在住高齢者1,477人を追跡した研究が発表されました。

研究では、「働いていない状態を続けた人」「新たに働き始めた人」「退職した人」「働き続けた人」の4群を比較しています。

その結果、働いていない状態から新たに就労した人では、フレイルと抑うつ症状の発生が少ない関連がみられました。

一方、退職した人と働き続けた人を比較すると、フレイルや抑うつ症状に明確な差はありませんでした。

出典:Fujii K, et al. Health effects of employment initiation and retirement in later life among Japanese older adults. Public Health. 2026.

この結果は、「仕事を始めることが健康にプラスになる可能性」を示しています。

しかし同時に、「仕事を辞めたら必ず弱るわけではない」という点も重要です。

働くことは認知機能の維持につながる?

「仕事を辞めるとボケるのでは」と心配する方もいるでしょう。

2024年の研究では、60歳以降の就業と認知機能を長期的に調べた6研究が検討され、そのうち5研究で、高齢期の就業していると、その後の認知機能が低下しにくかったと報告されています。

出典:Takase M, et al. The association between employment and cognitive function in older adults: A systematic review. Geriatr Gerontol Int. 2024.

仕事をしていると、人と話す、予定を覚える、状況を判断する、身体を動かす、決められた時間に外出するといった活動が自然に生まれます。

こうした活動が認知機能と関係している可能性は考えられます。

しかし、現在の研究だけで「働けば認知症を予防できる」とは言えません。

その理由の一つが健康労働者効果(Healthy worker effect)です。

「働いたから健康だった」

だけではなく、

「もともと健康だったから働き続けられた」

という逆方向の関係も考える必要があります。

認知症予防のために無理に仕事を続ける、という考え方には根拠が足りません。

むしろ、人との交流や外出、身体活動、頭を使う機会などを、仕事を含めた生活全体の中でどう保つかを考える方が現実的です。

大切なのは「働くか否か」より「どう働くか」

当たり前ですが…..どんな仕事でも健康に良いわけではありません。

日本の65歳以上1,668人を5年間追跡した研究では、男性では自分の技能を生かせる仕事が精神面に良い方向で関連しました。

一方、女性では、仕事への満足度が低いことや、自分に合っていない仕事が精神的健康の悪化と関連していました。

出典:Noguchi T, et al. The Impact of Job Conditions on Health-Related Quality of Life among Working Japanese Older Adults. Arch Gerontol Geriatr. 2021.

また、日本の高齢労働者1,069人を2年間追跡した研究では、非経済的な理由で働いていた人と比べ、経済的理由だけで働いていた人では、主観的健康感や高次生活機能が低下しやすい関連がみられました。

出典:Nemoto Y, et al. Working for only financial reasons attenuates the health effects of working beyond retirement age. Geriatr Gerontol Int. 2020.

これは、「お金のために働くと健康に悪い」という意味ではありません。

経済的な理由から仕事を辞めにくい人では、長時間勤務、身体的にきつい仕事、低い裁量など、別の条件が重なっている可能性があります。
働きたくて働いているというより、働かざるを得ない状況だと良くないと言うことでしょう💦🐢まあたしかに…

2026年のシステマティックレビューでも、50歳以上の労働者では、高い身体的負荷、危険な作業環境、高い心理的要求、低い仕事の裁量や報酬、長時間労働などが、病気による欠勤・休業と関連すると整理されています。

出典:Gero K, et al. The impact of working conditions on sickness absence among older workers: a systematic review. Eur J Ageing. 2026.

高齢者に必要なのは、単に「仕事を続けること」ではありません。

大切なのは、身体機能・経験・希望と、仕事内容が合っていることです。

若い頃と同じ仕事を、同じ時間、同じ速さで続けることが正解とは限りません。

短時間勤務にする、勤務日数を減らす、仕事内容を変えるといった調整も、高齢期の「働き続ける」を支える大切な選択肢です。

高齢者の就労では転倒・労災対策も欠かせない

働くことのメリットだけを強調するのも危険です。

2024年には、雇用者全体に占める60歳以上の割合は19.1%でした。

一方、休業4日以上の労働災害では、60歳以上が30.0%を占めています。

65~69歳の労働災害発生率(度数率)は男性2.23、女性3.37となっており、加齢とともに労災発生リスクが高くなる傾向も示されています。

出典:厚生労働省「高年齢者等職業安定対策基本方針」

また、2025年には全労働者で休業4日以上の労働災害が13万5,333人発生しています。

事故の種類 死傷者数
転倒 37,195人
動作の反動・無理な動作 22,166人
墜落・転落 20,864人

最も多いのは転倒です。

出典:厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」

さらに2026年4月1日から、改正労働安全衛生法により、事業者には高年齢者の特性に配慮した労働災害防止措置を講じる努力義務が設けられました。

厚生労働省の指針では、作業環境の改善、重量物作業の軽減、健康状態や体力の把握、必要に応じた作業内容や勤務時間の調整などが示されています。

出典:厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」

「高齢者だから危険」と年齢だけで判断するのも、「まだ仕事に行けているから大丈夫」と考えるのも適切ではありません。

同じ70歳でも、筋力、バランス、歩行能力、持久力、痛み、視力などには大きな個人差があります。

理学療法士として高齢者の身体を見るときも、年齢だけで「できる・できない」を決めることはありません。

仕事についても同じで、現在の身体機能と仕事内容が合っているかを見ることが重要です。

親が働き続けるなら「仕事」ではなく「生活全体」を見る

家族が高齢の親の働き方を考えるとき、特に気をつけたいことがあります。

それは、「仕事に行けている=元気」とは限らないことです。

仕事を続けることに体力を使い切り、帰宅後はほとんど動けない。食事や入浴がおろそかになる。休日は一日中寝ている。

こうした状態であれば、仕事そのものは続けられていても、負荷が大きすぎる可能性があります。

家族で確認したいのは、次の5点です。

  1. 本人が働きたいと思っているか
    「健康のために働いた方がいい」と周囲が決めるのではなく、まず本人の希望を確認します。
  2. 仕事内容と身体機能が合っているか
    長時間の立ち仕事、重量物、階段、高所、滑りやすい床など、仕事内容との相性を見ます。
  3. 勤務時間に無理がないか
    短時間勤務や勤務日数を減らす方法もあります。
  4. 仕事のあとも生活を保てているか
    食事、入浴、家事、趣味、外出などが極端に減っていないか確認します。
  5. 「減らす・変える・辞める」を選べるか
    身体がつらくても、経済的な理由などで無理を続けていないかも重要です。

見るべきなのは、「仕事ができているか」だけではありません。

仕事を含めた生活全体が保てているかを見ることが大切です。

これは理学療法の場面でも同じです。

一つの動作が「できる」かどうかだけでなく、その活動を続けても日常生活全体に無理が出ないかまで考える必要があります。

仕事を辞めても「役割」はなくならない

「仕事を辞めたら一気に弱るのでは」と不安になる方もいるでしょう。

しかし、退職そのものが健康に悪いとは限りません。

2026年のFujiiらの研究では、退職した人と働き続けた人を比較して、フレイルや抑うつ症状に明確な差はありませんでした。

さらに2025年に15件のシステマティックレビューをまとめた研究でも、退職後の健康への影響は一方向ではなく、社会経済的な状況、退職前の仕事内容、生活習慣、退職後の過ごし方などによって異なると整理されています。

出典:Vigezzi GP, et al. Impact of retirement transition on health, well-being and health behaviours: critical insights from an overview of reviews. Soc Sci Med. 2025.

ここで重要になるのが社会参加です。

日本の高齢者12,951人を4年間追跡した研究では、社会参加をしていない人と比べ、地域組織、趣味の会、スポーツ組織などへ参加している人では、その後に要介護状態になるリスクが低い関連がみられました。

出典:Kanamori S, et al. Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese: the JAGES cohort study. PLoS One. 2014.

もちろん、この観察研究だけから「社会参加をすれば要介護を予防できる」と断定することはできません。

ただし、ここから見えてくることがあります。

健康との関係が注目されているのは、「給料をもらって働くこと」だけではありません。

外出する、人と会う、身体を動かす、頭を使う、誰かの役に立つ。

こうした「役割」や「つながり」は、仕事を辞めたあとにも持ち続けることができます。

趣味の会やスポーツ、地域活動、ボランティア、家庭菜園、家事、孫の世話なども、その人にとって大切な役割になり得ます。

高齢期の働き方はフルタイムだけではない

高齢期の働き方を、「週5日働く」か「完全に引退する」かの二択で考える必要はありません。

厚生労働省では、全国300か所の主要なハローワークに「生涯現役支援窓口」を設け、概ね60歳以上の方を対象に再就職などを支援しています。

本人の就業ニーズに応じた職業相談や職業紹介に加え、必要に応じてシルバー人材センターなどの関係機関につなぐ支援も行われています。

出典:厚生労働省「生涯現役支援窓口事業」

75歳以上が活躍する「ばあちゃん食堂」

高齢者の経験を仕事につなげるユニークな例が、福岡県うきは市から始まった「ばあちゃん食堂」です。

75歳以上の高齢者が活躍するばあちゃん食堂

運営する「うきはの宝株式会社」は、75歳以上のおばあちゃんたちが働き、活躍できる場づくりを進めています。

料理や惣菜、昔ながらの知恵など、それぞれが長い人生の中で培ってきた経験や得意なことを仕事につなげる取り組みです。

出典:うきはの宝株式会社「ばあちゃん食堂オープンします!」

その人が持っている経験や得意なことを、無理のない形で社会の役割につなげるという考えが大事ですね!

「働き続ける」ことだけを目標にするのではなく、年齢や体力の変化に合わせて役割の形を変えていくという発想も必要です。

まとめ|「何歳まで働くか」より「どう役割を持つか」

高齢期の就労と健康について、現在分かっていることを整理します。

  • 高齢期の就労は、フレイル・抑うつ・認知機能低下が少ないことと関連する研究がある
  • ただし、「働けば健康になる」という因果関係が証明されたわけではない
  • 身体負荷や勤務時間、仕事の裁量など「どう働くか」が重要である
  • 高齢者では転倒などの労災にも注意し、身体機能と仕事内容を合わせる必要がある
  • 退職後も、趣味や地域活動などを通じて役割や社会とのつながりを持つことができる

「高齢になっても働くほど健康」ではなく

大切なのは、自分に合った負荷で、自分で選び、人とのつながりや役割を持てる活動を続けることです。

本人は何をしたいのか。今の身体で無理なく続けられるのか。そして、仕事以外の生活も保てているのか。

そこから一緒に考えていくことが大切です。

おたっしゃ編集後記

私が働いている介護施設にも、70歳を超えて元気に働いている職員がいます。

「介護の仕事は身体を使うし、70歳を超えると大変なのでは?」と思うかもしれません。実際、介護の仕事には身体的な負担があります。

ただ、職場ではその人に無理がかからないよう、身体介護は他のスタッフが担当するなど、仕事内容を調整しています。

介護に限らず、<strong>年齢だけで決めるのではなく、その人の体力や得意なことに合わせて役割を調整すること</strong>が、どの職場でも大切なのだと思います。
これはつまり管理職クラスが見極める力も試されますね。

人手不足が続く今、元気な高齢者が無理のない形で働き続けられれば、職場にとって大きな戦力になります。

さらに、働くことが社会とのつながりや役割を持つきっかけとなり、健康にも良い方向で関係するのであれば、働く本人にとっても職場にとっても、そして日本社会にとってもプラスになりますね!

参考文献・出典

本記事は、公的機関の資料や研究論文などの情報をもとに、現役理学療法士が一般向けに解説したものです。個別の症状や治療、介護、制度利用などについては、医師・医療専門職・自治体などの専門機関へご相談ください。