「デイサービスから突然『今月末で閉鎖します』と連絡が来た」
「親が入居している有料老人ホームで、最近職員さんが次々と辞めている」
介護や医療は公的な制度に支えられていますが、個々の事業所や施設がずっと存続することまで保証されているわけではありません。
2025年は、東京商工リサーチが集計する介護事業者の倒産が176件、休廃業・解散が653件となり、いずれも過去最多でした。さらに2026年に入ってからも、デイサービスや医療機関では倒産が続いています。
- 2025年は介護事業者の倒産176件、休廃業・解散653件。合計829事業者が市場から退出
- 医療機関も2025年の倒産66件が過去最多。2026年上半期も39件で上半期最多
- 閉鎖の連絡が来たら、まず優先するのは「必要な介護・医療サービスを途切れさせないこと」
- 普段から、相談先・代替サービス・契約内容を確認しておくことが現実的な備え
この記事では、2026年9月時点で確認できるデータをもとに、介護事業者や医療機関の倒産・休廃業の現状と、家族ができる備えを整理します。
介護事業所や医療機関も、閉鎖することがある
まず押さえておきたいのは、
介護保険や医療保険が公的制度であることと、個々の事業所・施設の経営が継続することは別 だという点です。
介護・医療サービスの運営主体には、医療法人、社会福祉法人、株式会社、自治体などさまざまな形があります。経営悪化だけでなく、人手不足、経営者の高齢化、後継者不在などを理由に事業を終えるケースもあります。
また、「倒産」と「休廃業・解散」は同じ意味ではありません。
| 比較 | 倒産 | 休廃業・解散 |
|---|---|---|
| 意味 | 資金繰りが行き詰まり、破産などの法的整理に至るケースなど。調査会社ごとに集計基準がある | 倒産以外で事業を停止・廃止したり、法人を解散したりするケース |
| 主な背景 | 売上不振、資金繰り、人件費・物価高、人手不足など | 経営不振に加え、経営者の高齢化や後継者不足なども含まれる |
| 利用者への影響 | 急なサービス停止につながる場合がある | 比較的計画的な場合もあるが、利用先・入居先の変更が必要になることがある |
「休廃業=経営破綻」ではありません。
しかし、理由が何であれ、利用者にとっては「今までのように利用ができなくなる」という問題が生じます。
2025年、介護事業者の倒産・休廃業は過去最多
倒産は176件、2年連続で過去最多
東京商工リサーチによると、2025年の「老人福祉・介護事業」の倒産は176件で、2024年の172件を上回り、2年連続で過去最多となりました。コロナ禍前の2019年111件と比べると、約6割増えています。
| 年 | 倒産件数 | ポイント |
|---|---|---|
| 2019年 | 111件 | コロナ禍前の水準 |
| 2022年 | 143件 | 当時の過去最多 |
| 2024年 | 172件 | 前年比40.9%増で過去最多 |
| 2025年 | 176件 | 2年連続で過去最多 |
出典:東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件」
休廃業・解散は653件。倒産と合わせると829事業者
2025年に倒産以外で事業を停止した「休廃業・解散」は653件で、4年連続の過去最多でした。
倒産176件と合わせると、2025年だけで829事業者が東京商工リサーチの集計上、市場から退出したことになります。
ニュースで目立つ「倒産」だけでなく、休廃業・解散の方が件数ははるかに多い。利用者側から見ると、こちらも無視できない変化です。
出典:東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の休廃業・解散653件」
2025年は訪問介護91件、通所・短期入所45件
倒産176件の内訳を見ると、訪問介護が91件と最も多く、全体の半数を超えました。通所・短期入所は45件、有料老人ホームは16件でした。認知症グループホームは「その他」に含まれ、そのうち9件でした。
| サービス類型 | 2025年倒産件数 | 前年との比較 |
|---|---|---|
| 訪問介護 | 91件 | 前年比12.3%増、3年連続最多 |
| 通所・短期入所 | 45件 | 前年比19.6%減だが高水準 |
| 有料老人ホーム | 16件 | 前年比11.1%減 |
ここは「すべての介護サービスで倒産が増え続けている」と読むべきではありません。2025年は訪問介護が増えた一方、通所・短期入所や有料老人ホームは前年より減っています。
ただし、倒産した介護事業者のうち従業員10人未満が142件、全体の80.6%を占めており、小規模事業者に倒産が集中していることは押さえておきたい点です。
医療機関も倒産・休廃業が増えている
帝国データバンクによると、2025年の医療機関の倒産は66件で過去最多、休廃業・解散は823件でこちらも過去最多でした。
ただし、ここには重要な注意点があります。病院13件、診療所28件、歯科医院25件を合計した「医療機関全体」が過去最多なのであって、3業態それぞれが過去最多だったわけではありません。3業態はいずれも過去2番目の件数でした。
出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」
休廃業・解散が多い背景として、帝国データバンクは診療所経営者の高齢化と後継者不足を挙げています。同社が年齢を確認できた診療所経営者1万553人を調べたところ、2026年の誕生日年齢で70歳以上が56.7%でした。
さらに2026年上半期には、医療機関の倒産が39件となり、上半期として過去最多だった2025年の35件を上回っています。
出典:帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2026年上半期)」
医療機関の休廃業には、経営破綻だけでなく、院長の高齢化や後継者不在による閉院も含まれます。「かかりつけ医が突然倒産する」という話だけではなく、地域の医療提供者そのものが減る問題として考える必要があります。
なぜ介護・医療の事業継続が難しくなっているのか
介護と医療では事情が完全に同じではありませんが、共通するのは、保険給付部分の価格を事業者が自由に値上げできないことです。介護報酬や診療報酬は国が定める公定価格のため、物価や人件費が上がったからといって、その分をすぐ利用料金へ転嫁できるわけではありません。
訪問介護では2024年度の基本報酬引き下げも影響
2024年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が引き下げられました。東京商工リサーチは、2025年の訪問介護倒産91件の背景として、このマイナス改定に加え、ヘルパー不足、ガソリン代などの運営コスト上昇を挙げています。
「報酬改定だけが倒産の原因」とは言えませんが、複数の負担が重なった一因とみるのが適切です。
人手不足と人件費上昇
2025年の介護事業者の「人手不足」関連倒産は29件で、過去最多でした。
人が集まらなければ、利用希望者がいても受け入れ人数を増やせません。既存職員の負担が重くなり、さらに退職が増えるという悪循環に入ることもあります。
物価・光熱費・燃料費の上昇
デイサービスでは送迎の燃料費、食事提供にかかる食材費、光熱費などがかかります。訪問介護では移動コストも無視できません。病院でも医療材料、給食、設備維持、光熱費など幅広いコストが発生します。
こうした費用の上昇に対し、収入側を自由に調整しにくいことが経営を圧迫します。
小規模事業者と後継者問題
介護の倒産は小規模事業者に集中しています。一方、医療機関の休廃業では診療所経営者の高齢化と後継者不足が大きな要因になっています。
「経営努力が足りない施設だけがなくなる」と考えるのは単純すぎます。報酬制度、人手不足、物価高、事業規模、地域の人口や競争環境など、複数の要因が重なっています。
実際に起きた閉鎖事例から分かること
有料老人ホームで職員が大量退職した事例
2024年、東京都足立区の住宅型有料老人ホーム「ドクターハウス ジャルダン入谷」では、給与未払いをきっかけに職員が相次いで退職しました。FNNの報道では、90人以上の入居者がいる中で、約30人の職員が2か月ほどの間に退職したとされています。
同じ運営会社の全国4施設は2024年10月10日に閉鎖されました。
この問題を受け、厚生労働省は2024年10月18日、介護保険最新情報Vol.1321「有料老人ホームの安定的かつ継続的な運営の確保の徹底について」を自治体へ通知しています。
出典:FNNプライムオンライン「都内高齢者施設で職員30人一斉退職…」
出典:厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1321」
デイサービスが休止し、利用者を他施設へ引き継いだ事例
北海道士別市の「デイサービスハウスこもれ陽」は、2024年12月末で休止しました。報道では、開設当初80〜90%だった稼働率が2024年11月には20%まで低下し、慢性的な職員不足も重なっていたとされています。
このケースでは、利用者は他の施設へ引き継がれました。
同じ「事業所がなくなる」という出来事でも、代替サービスが確保できるか、移行調整が早く始まるかによって、利用者への影響は大きく変わります。
閉鎖の連絡が来たら、最初にやること
突然の閉鎖通知が届いたとき、最優先は事業所の経営分析ではありません。今受けている支援のうち、止めてはいけないものを整理し、次につなぐことです。
- 終了日と今後の窓口を確認する
最終利用日、移行支援の有無、料金精算、預けている物品や書類の返却などを確認します。 - 担当ケアマネジャーへ早めに連絡する
デイサービスや訪問介護など介護保険サービスを利用している人は、代替サービスとケアプランの調整を相談します。担当ケアマネがいない場合は、市区町村の介護保険窓口や地域包括支援センターへ相談します。 - 「途切れると困る支援」を先に洗い出す
入浴、食事、服薬確認、送迎、リハビリ、医療処置、家族の就労中の見守りなど、生活への影響が大きい支援から優先して代替先を探します。 - 契約書・重要事項説明書・支払い記録をまとめる
入居施設の場合は、前払金、敷金、未利用分、返還条件を確認します。契約や返金でトラブルになった場合は、消費者ホットライン188も相談先になります。
普段からできる備え
介護サービス情報公表システムで事業所を確認する
厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」では、全国の介護サービス事業所について、所在地、運営方針、サービス内容、従業者、利用者数、運営状況などを確認できます。複数の事業所を比較する機能もあります。
確認するなら、単に口コミだけを見るのではなく、次のような基本情報を見ておくとよいでしょう。
- 事業の開始時期と運営法人
- 従業者の人数や体制
- 利用者数や受け入れ状況
- 苦情対応、安全管理、職員研修などの運営情報
社会福祉法人が運営している場合は、WAM NETの「社会福祉法人の現況報告書等情報検索」で、現況報告書や計算書類などを確認できます。
ただし、一般の家族が決算書だけで「この施設は安全」「ここは危険」と判断するのは現実的ではありません。経営を見抜くことより、情報を確認できる場所を知っておくことが大切です。
有料老人ホームは契約内容も確認しておく
有料老人ホームでは、入居時にまとまった前払金を支払う場合があります。こうした前払金には、施設の経営が悪化した場合などに備えるため、法律上の保全措置が設けられています。
ただし、「施設が倒産すれば支払ったお金がすべて戻る」という仕組みではありません。
入居前には、重要事項説明書で前払金の金額、償却方法、途中退去した場合の返還条件、保全措置を確認しておきましょう。
ケアマネと地域包括支援センターの連絡先を手元に置く
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談、権利擁護、介護予防などを担う市町村の窓口です。厚生労働省によると、2025年4月末時点で全国5,487か所、ブランチを含めると7,374か所あります。
出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム/地域包括支援センター」
担当ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の介護保険窓口の連絡先は、スマートフォンだけでなく紙でも残しておくと、本人以外の家族でも確認しやすくなります。
「ここがなくなったら」を一度だけでも考えておく
第二候補・第三候補まで契約しておく必要はありません。ただ、普段から「同じ地域に同種のサービスがどの程度あるか」を把握しておくと、閉鎖時の初動が早くなります。
特に訪問介護は地域差が大きく、2026年3月の国会答弁では、2025年12月末時点で訪問介護事業所がない自治体が全国116町村あると厚生労働大臣が説明しています。
また、地域サロンや通いの場、近所づきあいなどは、訪問介護やデイサービスそのものの代わりにはなりません。それでも、外出や交流の機会を複数持っておくことは、生活が一つのサービスだけに依存しすぎないための助けになります。
2026年、支援策は進んだが「もう安心」とは言えない
2026年度は、2027年度の通常改定を待たずに介護報酬の期中改定が行われ、改定率は+2.03%となりました。
このうち、介護分野の職員の処遇改善にあたる+1.95%は2026年6月から施行されています。食費の基準費用額の引き上げに対応する+0.09%は2026年8月施行です。
ただし、この改定だけで倒産・休廃業が減ると断定することはできません。実際、2026年1〜5月のデイサービス倒産は上半期最多をすでに更新しています。一方、訪問介護は前年同期より減少しており、今後はサービス類型ごとの動きを見る必要があります。
医療機関も2026年上半期の倒産が39件で上半期最多となっています。
「介護・医療の事業所は絶対になくならない」という前提ではなく、「なくなることもある。その時に生活をどうつなぐか」を考えておく。これが、利用者と家族にとって現実的な備えです。
まとめ
- 2025年の介護事業者は、倒産176件・休廃業解散653件でいずれも過去最多
- 医療機関も2025年の倒産66件・休廃業解散823件が過去最多で、2026年上半期も高水準
- 閉鎖通知が来たら、まずケアマネや自治体へ相談し、必要なサービスの空白をできるだけ短くする
- 普段から情報公表システム、契約・前払金、相談先、地域の代替サービスを確認しておく
施設や事業所の経営そのものを、利用者側がコントロールすることはできません。
だからこそ必要なのは、「危ない施設を完璧に見抜くこと」ではなく、もし今のサービスが使えなくなっても、次につながれる状態をつくっておくことだと思います。
私自身、介護の現場で、事業所の廃止によってケアマネジャーが急いで受け入れ先を探す場面を目にしてきました。「受け入れたいんですが、人員不足でなかなか…」ということもあります。
本人や家族にとっては、制度上の「1事業所の廃止」ではなく、毎日の入浴、食事、外出、見守り、家族の仕事まで関わる生活上の問題です。
まずは、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターの連絡先を、家族で共有するところから始めてみてください。
参考文献・出典
東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202283_1527.html
東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の休廃業・解散653件」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202326_1527.html
東京商工リサーチ「2026年1-5月『デイサービス事業者』倒産動向」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202949_1527.html
帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260123-iryoukikan2025/
帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2026年上半期)」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260713-iryoukikan2025/
厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」
厚生労働省「介護サービスの情報公表制度」「地域包括支援センター」「老人福祉法」「老人福祉法施行規則」
厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1321「有料老人ホームの安定的かつ継続的な運営の確保の徹底について」(2024年10月18日)
Takeuchi H, et al. Association between social participation and frailty among older adults: A longitudinal study from Japan Gerontological Evaluation Study. Nihon Koshu Eisei Zasshi. 2023;70(9):529-543.
消費者庁「消費者ホットライン188」
本記事は、公的機関の資料や研究論文などの情報をもとに、経験約15年の現役理学療法士が一般向けに解説したものです。個別の症状や治療、介護、制度利用などについては、医師・医療専門職・自治体などの専門機関へご相談ください。統計は集計機関によって定義や件数が異なる場合があります。
