「最近、親の物忘れが増えた気がする」
「退院はできたけれど、家に帰ってからの生活が前より大変になった」
「この先、自分たち家族だけで介護していけるだろうか……」
親が年齢を重ねてくると、こんな不安が少しずつ現実味を帯びてきます。
介護は、必ずしもゆっくり始まるとは限りません。転倒や骨折、脳卒中、急な入院などをきっかけに、それまで元気だった方の生活が大きく変わることもあります。
そんなとき、家族だけで何とかしようとする必要はありません。
まず知っておきたいのが、介護を社会全体で支える「介護保険制度」です。
- 介護保険は、原則40歳から関わる公的な保険制度
- 介護が必要になったら、まず市区町村や地域包括支援センターへ相談
- サービスは自分たちだけで選ばなくてよい。専門職と一緒に考えられる
- 介護保険は「お世話をしてもらうだけ」でなく、自立した生活を支える制度
介護保険は、一部の人だけが使う特別な制度ではありません。
厚生労働省が2026年8月に公表した「令和6年度 介護保険事業状況報告(年報)」では、2025年3月末時点の要介護・要支援認定者は約721万人。65歳以上の第1号被保険者に占める認定者の割合は19.7%でした。
単純にいえば、65歳以上のおよそ5人に1人が要介護・要支援認定を受けている計算です。
この記事では、介護保険とはどんな制度なのか、誰が利用できるのか、申請からサービス利用までどう進むのかを、できるだけ分かりやすく整理します。
介護保険とは?介護を家族だけで抱えないための制度
介護保険は、介護が必要になった方を社会全体で支えるための公的な社会保険制度です。
2000年(平成12年)4月に始まり、市区町村が保険者となって運営しています。
制度がつくられた背景には、高齢化だけでなく、核家族化や家族の働き方の変化があります。
以前のように、「親の介護は家族だけで担う」という形では、生活そのものが成り立たなくなる家庭も少なくありません。
私自身、理学療法士として高齢者やご家族と関わっていると、こんな話を聞くことがあります。
「息子は県外に住んでいるし、娘も仕事がある。できるだけ子どもたちには迷惑をかけたくないんです」
これは決して珍しい話ではありません。
経済産業省では、仕事をしながら家族の介護をする「ビジネスケアラー」が2030年には約318万人に達すると推計しています。
介護離職も毎年約10万人規模で発生しており、介護を家族だけの問題として考えることには限界があります。
介護保険には、「家族が全部やる」のではなく、必要な支援を社会の仕組みとして利用するという重要な役割があります。
介護保険が大切にしているのは「自立した生活」
介護保険というと、「できなくなったことを代わりにやってもらう制度」というイメージがあるかもしれません。
しかし、本来の考え方は少し違います。
介護保険が目指しているのは、その人が持っている力を活かしながら、できる限り自分らしい生活を続けられるよう支えることです。
介護保険法でも、本人の尊厳を守り、その能力に応じて自立した日常生活を営めるよう支援することが制度の基本理念として示されています。
そのため、「何でもやってもらうこと」が必ずしも良い介護とは限りません。
できることは続けながら、難しいところだけ支援してもらう。そのバランスを考えることが大切です。
介護保険は誰が加入する?40歳から関係する制度
「介護保険は高齢者のための保険」と思っている方も多いかもしれません。
実際には、介護保険の被保険者は年齢によって、第1号被保険者と第2号被保険者に分かれています。
| 第1号被保険者 | 第2号被保険者 | |
|---|---|---|
| 対象 | 65歳以上 | 40〜64歳の医療保険加入者 |
| 介護保険を利用できる条件 | 原因を問わず、要介護・要支援状態と認定された場合 | 16種類の「特定疾病」が原因で要介護・要支援状態となった場合 |
| 保険料 | 年金からの天引きなど | 加入している医療保険の保険料とあわせて負担 |
40〜64歳の第2号被保険者は、病気やけがで介護が必要になれば何でも介護保険を使えるわけではありません。
対象になるのは、脳血管疾患、初老期における認知症、関節リウマチ、パーキンソン病関連疾患、末期がんなど、国が定めた16種類の特定疾病が原因の場合です。
一方、65歳以上では、介護が必要になった原因を問わず要介護・要支援認定の対象になります。
要介護・要支援認定者は約721万人|65歳以上のおよそ5人に1人
では、実際にどれくらいの人が介護保険と関わっているのでしょうか。
厚生労働省が公表した「令和6年度 介護保険事業状況報告(年報)」をみると、次のようになっています。
| 項目 | 最新値 |
|---|---|
| 要介護・要支援認定者数 | 約721万人 (2025年3月末) |
| 第1号被保険者の認定率 | 19.7% (2025年3月末) |
| サービス受給者数 | 月平均約620万人 (令和6年度) |
認定者数は前年度の708万人から721万人へ増えています。
「介護保険のお世話になるなんて……」と抵抗を感じる方もいますが、これだけ多くの方が利用している社会制度です。
介護保険を使うことは、家族が介護を放棄することではありません。
本人の生活と家族の生活を両方守るために、必要な支援を社会の仕組みから借りることだと考えてみてください。
介護が必要かもしれないと思ったら、まずどこへ相談する?
ここはぜひ覚えておいてください。
親の生活に不安を感じたら、まず「地域包括支援センター」または市区町村の介護保険担当窓口へ相談してください。
地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを支える地域の総合相談窓口です。
介護だけでなく、認知症、介護予防、家族の介護負担、権利擁護など、高齢者に関するさまざまな相談に対応しています。
「まだ介護保険を申請するほどなのか分からない」という段階で相談しても構いません。
むしろ、困り切ってからではなく、少し気になり始めた段階で相談するほうが選択肢を考えやすくなります。
介護保険サービスを利用するまでの流れ
介護保険サービスの利用には、原則として要介護・要支援認定を受ける必要があります。
大まかな流れは次の4段階です。
① 市区町村へ要介護認定を申請する
まず、お住まいの市区町村へ要介護・要支援認定を申請します。
本人だけでなく、家族などが申請を代行することも可能です。地域包括支援センターなどに相談しながら進めることもできます。
② 認定調査と主治医意見書
申請すると、市区町村の認定調査員などが自宅や施設を訪問し、本人の心身の状態や生活の様子について聞き取りを行います。
あわせて、市区町村から主治医へ「主治医意見書」の作成が依頼されます。
③ 要介護度が決まる
認定調査や主治医意見書などをもとに審査が行われ、結果は次のいずれかになります。
要支援1・2 / 要介護1〜5 / 非該当
要介護5に近づくほど、日常生活で必要とされる介護の程度が大きいという位置づけです。
申請から認定結果の通知までは、法律上原則30日以内とされています。
④ ケアプランを作り、サービスを利用する
認定後は、本人がどのような生活を送りたいのか、何に困っているのかを整理しながら、利用するサービスを検討します。
要介護者では居宅介護支援事業所のケアマネジャー、要支援者では地域包括支援センターや指定を受けた居宅介護支援事業所などが、ケアプラン作成を支援します。
ここで大切なのは、サービスの種類を家族だけで全部調べて決める必要はないということです。
介護保険ではどんなサービスを利用できる?
介護保険には非常に多くのサービスがあります。
すべて覚える必要はありません。まずは、「自宅で受ける」「通う」「泊まる・入所する」「生活環境を整える」というイメージを持っておけば十分です。
自宅に来てもらうサービス
訪問介護では、ホームヘルパーが自宅を訪問し、食事・入浴・排泄などの身体介護や、一定の範囲で掃除・洗濯などの生活援助を行います。
訪問看護では看護師などが健康状態の確認や療養上の支援を行い、訪問リハビリテーションでは理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などが自宅を訪問してリハビリを行います。
施設へ通うサービス
通所介護(デイサービス)では、日帰りで食事や入浴、機能訓練などを受けます。
通所リハビリテーション(デイケア)では、医師の指示のもと、リハビリテーションを中心とした支援を受けられます。
一時的に泊まるサービス
ショートステイでは、短期間施設へ宿泊し、食事や入浴などの介護を受けることができます。
本人への支援だけでなく、家族が休息をとったり、仕事や冠婚葬祭などで介護できない期間を支えたりする役割もあります。
福祉用具や住宅改修も介護保険の対象
介護保険は、人による介護だけではありません。
歩行器や手すりなどの福祉用具の貸与・購入、自宅の手すり設置や段差解消などの住宅改修にも利用できます。
ただし、福祉用具は種類や要介護度によって給付条件が異なるため、必要になったらケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しましょう。
施設へ入る場合に使われる介護保険サービス
自宅での生活が難しくなった場合には、施設サービスも選択肢になります。
| 施設 | 主な役割 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム (特養) |
常時介護が必要な方の生活を支える施設。新規入所は原則要介護3以上 |
| 介護老人保健施設 (老健) |
病状が安定した方にリハビリや介護を提供し、在宅復帰や在宅生活の支援を行う |
| 介護医療院 | 長期的な医療と介護の両方を必要とする方を支える施設 |
施設ごとに目的が違うため、「どこが一番良いか」ではなく、本人の状態や今後の生活に何が必要かで選ぶことが重要です。
住み慣れた地域で暮らすための「地域密着型サービス」
介護保険には、地域の実情に合わせて市区町村が指定・監督する地域密着型サービスもあります。
たとえば「通い」「訪問」「泊まり」を柔軟に組み合わせられる小規模多機能型居宅介護や、認知症の方が少人数で共同生活する認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などです。
原則として、その事業所がある市区町村の住民が利用する仕組みになっています。
サービス名だけを見ると難しく感じますが、全部覚える必要はありません。
大切なのは「サービス名」から考えないこと。
「何に困っているか」「どんな暮らしを続けたいか」を先に考え、そこから必要なサービスを選びます。
介護保険の自己負担は原則1割|所得によって2〜3割
介護保険サービスを利用した場合、利用者が負担するのは原則としてサービス費用の1割です。
一定以上の所得がある方は2割または3割になります。
また、自宅で利用する居宅サービスなどには、要介護度ごとに1か月あたりの支給限度額が設定されています。
限度額以内であれば1〜3割負担ですが、限度額を超えて利用した分については原則全額自己負担になります。
施設の場合には、介護サービスの自己負担とは別に、食費や居住費などが必要になります。
要介護認定が「非該当」でも相談してよい
要介護認定を申請しても、状態によっては「非該当」と判定されることがあります。
しかし、だからといって「何の支援も受けられない」とは限りません。
市区町村が実施する介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)などを利用できる場合があります。
総合事業には、要支援者や一定の基準に該当する方を対象とした訪問・通所型の支援のほか、65歳以上の方を対象とした体操教室などの一般介護予防事業があります。
介護保険の本分は「自立支援」|できることまで奪わない
ここは、理学療法士として特にお伝えしておきたいところです。
介護保険は、できないことをすべて代わりにやってもらうためだけの制度ではありません。
本人が持っている力を活かしながら、その人らしい生活を続けることを支える制度です。
これは単なる理想論ではなく、介護保険法そのものにも書かれています。
介護保険法 第4条(国民の努力及び義務)
国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする。
ポイントは、介護が必要になってからも「能力の維持向上」を目指すという考え方です。
実際の介護現場でも、何でも介助してしまえばよいわけではありません。
たとえば、自分で立てる方には可能な範囲で立ってもらう。歩ける方には安全を確保しながら歩く機会をつくる。着替えの一部ができるなら、その部分は自分で続けてもらう。
こうした「できることを続ける支援」が、その人の生活機能を守ることにつながります。
介護保険サービスの中には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士だけでなく、医師、看護師、介護職、ケアマネジャー、管理栄養士、社会福祉士など、さまざまな専門職が関わっています。
家族だけでは難しいことを、専門職の力も借りながら支えていく。
それが介護保険を利用する大きな意味のひとつです。
家族だけで介護しない|介護保険を使う本当の意味
介護が始まると、つい家族は頑張りすぎてしまいます。
「まだ自分たちでできる」
「他人に家へ入ってもらうのは嫌だ」
「親もデイサービスには行きたくないと言っている」
そんな気持ちも珍しくありません。
しかし、家族が疲れ切ってしまえば、在宅生活そのものが続けられなくなることがあります。
介護を長く続けるためには、家族が全部を背負わない仕組みを早めにつくることも重要です。
本人の自立を支えることと、家族の負担を減らすこと。
介護保険は、その両方のために使う制度だと考えてください。
まとめ|まず「地域包括支援センター」を覚えておこう
介護保険について細かい制度をすべて覚える必要はありません。
まず覚えておきたいのは、次の4点です。
- 介護保険は、介護を社会全体で支える公的な制度
- 65歳以上では約5人に1人が要介護・要支援認定を受けている
- 困ったら市区町村や地域包括支援センターへ相談する
- 目的は「何でもしてもらうこと」ではなく、自分らしい生活を支えること
親の物忘れが増えた。歩くのが大変になった。退院したけれど生活がうまくいかない。
そんな小さな変化を感じたときに、家族だけで答えを出す必要はありません。
「まだ介護保険を使うほどではないかも」と思う段階でも、相談して構いません。
まずは、ご家族が住んでいる地域の地域包括支援センターがどこにあるのかだけでも確認しておく。
それだけでも、いざ介護が必要になったときの大きな備えになります。
参考文献・出典
- 厚生労働省「令和6年度 介護保険事業状況報告(年報)」
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「介護保険とは」
-
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービス利用までの流れ」
厚生労働省の解説を見る -
経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
経済産業省の資料を見る - 総務省統計局「令和4年 就業構造基本調査」
- 介護保険法 第1条・第4条
本記事は、公的機関の資料や法令などの情報をもとに、現役理学療法士が一般向けに解説したものです。介護保険制度や利用条件は改正される場合があります。個別の介護や制度利用については、お住まいの市区町村・地域包括支援センター・医療介護専門職などへご相談ください。
