最期まで自分らしく

胃ろうも人工呼吸器も「望まない」のに、なぜ受けることになるのか:人生会議

X(旧Twitter)でこのようなポストを見かけました。

https://x.com/Meron_nurse04/status/2057742367940366370

 

https://x.com/wtkgumdgtwttm77/status/2057046215045640280

延命治療について看護師さん、患者さん家族側から見たものですね。
私も以前は病院で10年以上働いていたので、正直、看護師さんの言っていることは少し納得できます。

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🧑‍⚕️「もしあなたが意識を失ったら——認知症が進んで判断が難しくなったら——どんな医療を受けたいですか?」
こう聞かれて、すぐに答えが浮かぶ方は、多くないのではないでしょうか。
けれども、人生の最期に望まない延命治療を受けてしまうケース、残されたご家族が「あれで本当によかったのか」と長く苦しまれるケースは、医療や介護の現場では決して珍しいことではありません。
私自身も、病院や介護施設で働く中で、そうした患者さんやご利用者さんに何度もお会いしてきました。

ご家族は迷います。「これでいいのだろうか」「自分たちの判断は正しかったのだろうか」と、何年経っても答えの出ない問いを抱え続けます。

私たち医療者も同じです。「この治療は本当にこの方のためになっているのか」

——胸の奥に虚しさが残ることが、正直あります。

そんなときに支えになるのが、「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」という取り組みです。厚生労働省が普及を進めている、もしものときに望む医療やケアについて、前もって家族や信頼できる人と話し合っておく営みのこと。

今回は、理学療法士として地域の高齢者と関わるなかで「これは元気なうちから知っておいてほしい」と切実に感じているこのテーマを、できるだけわかりやすくお伝えします。

「人生会議」とは…

もしものときのための、家族との話し合い

厚生労働省によると、人生会議とは次のようなものです。

もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて、前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組

英語ではACP(Advance Care Planning)と呼ばれていて、2018年に厚生労働省が一般公募で「人生会議」という愛称を決めました。応募数は1,073件にのぼり、選ばれたのは静岡県の病院の看護師さんが考えた呼び名です。

11月30日は「人生会議の日」。「いい看取り、いい看取られ」の語呂合わせから定められました。

「終活」や「事前指示書」とは少し違います

「縁起でもない」「死ぬ準備みたいで嫌だ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、人生会議は「死に方を決める話」ではなく、最期まで自分らしく生きるための話し合いです。

財産整理や葬儀の準備をする「終活」とも、延命治療の希望を文書に残す「事前指示書(リビング・ウィル)」とも違います。文書を作ることが目的ではなく、大切な人たちと「どう生きたいか」を語り合うプロセスそのものが人生会議です。

気持ちは変わってもかまいません。何度でも話し直していい。そういう柔らかさのある取り組みです。

なぜ今、人生会議が必要なのでしょうか

人生の最期に、自分で決められなくなる人が多くいます

あまり知られていないことですが、海外の研究では、人生の最終段階で医療やケアの判断が必要になった高齢者のうち、約70%が自分で意思決定ができない状態だったと報告されています(Silveira MJ, Kim SYH, Langa KM. Advance Directives and Outcomes of Surrogate Decision Making before Death. N Engl J Med 2010;362:1211-1218)。

日本でも、厚生労働省が人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の普及啓発を進めている背景には、こうした「いざというときに自分で決められない」状況への備えという考え方があります(参考:厚生労働省「人生会議してみませんか」)。

意識がなくなる、認知症が進む、急な脳卒中で意思疎通ができなくなる。誰にでも起こりうることです。そのとき、自分の意思を代わりに伝えてくれる人がいなければ、医療現場ではいわゆる「フルコース」の治療が選択されがちです。

これは医療者が悪いわけではありません。意思がわからない以上、命を救うほうに動くのは当然のことです。だからこそ、「もしものとき、自分はどう過ごしたいか」を元気なうちから周囲に伝えておくことが大切になります。

残された家族の重荷を、少しでも軽くするために

家族が代理で判断を迫られる場面は、本当につらいものです。

「胃ろうをつけますか」「人工呼吸器をどうしますか」「もう積極的な治療はやめますか」——こうした決断を、本人の意向がわからないまま下さなければいけない。決めた家族は、その後も「あれでよかったのか」と長く自問することになります。

看護研究の世界では、こうした「代理意思決定」が家族に大きな精神的負担を与えることが繰り返し報告されています(出典:日本老年看護学会誌)。決断の迷い、痩せていく姿への悲しみ、臨終を覚悟する哀しみ——どれも避けられないものですが、本人の希望が事前にわかっているだけで、家族の納得感はずいぶん違います。

人生会議は、自分のためであると同時に、大切な家族を「決められない苦しみ」から守るための贈り物でもあるのです。

独り暮らしの方こそ、知っておきたい

もう一つ、見過ごせない変化があります。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、単独世帯の高齢者は2050年には1,084万人に達する見通しです。65歳以上で子のいない人は約1,049万人(現在の1.9倍)に増えると予測されています(出典:日本総研「頼れる親族がいない高齢者が今後急増」)。

「いざとなったら子どもが決めてくれる」という前提が、これからの社会では通用しなくなっていきます。だからこそ、家族がいる方も、おひとりの方も、信頼できる人と話し合っておくことの意味が大きくなっているのです。

多くの人が、まだ話し合えていません

令和4年度・厚生労働省の意識調査から

厚生労働省は、おおむね5年ごとに「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」を実施しています。最新の令和4年度調査(一般国民3,000人を対象)から、いくつかの数字を紹介します。

人生会議という言葉を知っていますか?

アンケート1

 

  • よく知っている:5.9%
  • 聞いたことはあるがよく知らない:21.5%
  • 知らない:72.1%

家族と最期の医療について話し合っていますか?

アンケート2
  • 詳しく話し合っている:1.5%
  • 一応話し合っている:28.4%
  • 話し合ったことはない:68.6%

つまり、言葉自体を知らない人が7割、家族と話し合えていない人も7割というのが日本の現状です。

話し合えない理由は、シンプルでした

「話し合ったことがない」と答えた方に理由を尋ねた結果がこちらです。

  • 話し合うきっかけがなかったから:62.8%
  • 知識がなく、何を話していいかわからない:31.0%
  • 話し合う必要性を感じない:21.8%

引用:令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について(報告)

反対しているわけでも、嫌がっているわけでもない。多くの人が「なんとなくきっかけがないまま、今日まで来てしまった」のです。実際、書面に希望を残しておくことについては約7割の方が「賛成」と答えています。

必要性は感じているのに、最初の一歩が踏み出せない。そんな方がほとんど。だから、この記事が「きっかけ」のひとつになれたらと願っています。

「望まない延命治療」を、どう避けるか

実は、多くの人が望んでいない医療があります

同じ令和4年度調査では、「もし自分が病気で1年以内に死に至ると考えたとき、どんな医療を望むか」も尋ねられています。一般国民の回答を見ると——

  • 胃ろう(手術で胃に穴を開けて栄養剤を入れる):望まない 63.3%/望む 7.6%
  • 中心静脈栄養(首から太い血管に点滴):望まない 54.5%/望む 11.8%
  • 人工呼吸器(気管に管を入れて呼吸を維持):望まない 57.3%/望む 11.6%
  • 心肺蘇生(心臓マッサージや電気ショック):望まない 53.8%/望む 20.7%

多くの方が、こうした医療を「自分には望まない」と答えています。ところが、意思が伝えられない状態で運ばれてくると、現場ではこれらが当たり前のように行われていく——というギャップが、実際には起こっているわけです。

本人の意思があれば、医療現場は尊重します

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人の意思を最大限尊重したうえで、医療・ケアチームが家族等と十分に話し合って方針を決めることが基本とされています。

つまり、事前に意思を表明しておけば、それは医療現場で大切にされるということです。「言っても意味がないのでは」と思う必要はありません。

私が病院に勤めていた際も、これらの意思表示が大切にされていましたし、私たちリハビリ職も患者さんごとでしっかり把握をしていました。電子カルテの一番目立つところに表示されたりします。
急変時の対応をどうするか、人工呼吸や挿管(口または鼻から気管に専用のチューブを挿入する医療行為)はするのか、その患者さんの「自分らしく生きる」ことにおいて非常に大切だからです。

「医療費削減のため」では、決してありません

何より、人生会議の目的は医療費削減ではありません。本人の価値観に沿った医療を実現すること、家族の心の負担を軽くすること——これに尽きます。お金の話を理由に治療を諦めさせるための仕組みではない、ということは、はっきりお伝えしておきたいと思います。

結果的に望まない延命治療が減れば、社会保障費にも好影響はあるかもしれません。でもそれは「副産物」であって、「目的」ではない。順番を間違えないようにしたい部分です。

今日から始められる、人生会議の小さな一歩

難しく考えなくて大丈夫です

「人生会議」と聞くと、家族を集めて改まった話をしなければいけないように感じますが、そんなことはありません。日常の何気ない会話のなかで、少しずつ気持ちを伝えていけばいいのです。

たとえばこんなことから——

  • 「自分が動けなくなったら、できれば家にいたいなあ」
  • 「管につながれて長生きするのは、私はあまり望まないかな」
  • 「もしものときは、お父さん(お母さん)の判断に任せるね」
  • 「胃ろうとか、人工呼吸器とか、私はいらないと思ってるよ」

テレビで終末期の話題を見たとき、ご家族や友人の入院をきっかけにしたとき、自分の誕生日のとき——切り出すきっかけは、生活のなかにたくさんあります。

話し合っておきたい、3つのこと

もう少し具体的に整理するなら、次の3つを意識してみてください。

1. 自分が大切にしていること
「家族と過ごす時間を大事にしたい」「痛みなく穏やかに過ごしたい」「最期は住み慣れた家がいい」など、価値観の部分。

2. 受けたい医療、受けたくない医療
胃ろう、人工呼吸器、心肺蘇生、点滴、抗生剤——具体的に思うところがあれば言葉にしておく。

3. 自分が決められなくなったとき、誰に決めてもらいたいか
配偶者、子ども、信頼できる友人など。「この人なら私の気持ちをわかってくれる」という方を一人決めておく。

厚生労働省の「人生会議」ポータルサイトには、話し合いの進め方をまとめたフロー図やリーフレットもあります。最初のとっかかりとして眺めてみるのもおすすめです。

 

かかりつけ医や、地域包括支援センターも頼れます

自分の病気のことや体の状態については、ご家族だけでは判断が難しい部分もあります。そんなときは、かかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャーなどの専門職に相談してみてください。「人生会議をしたい」と伝えれば、多くの専門職が一緒に考えてくれます。

地域包括支援センターも、こうした相談に応じてくれる頼れる窓口です。お住まいの市町村のセンターをまずは知っておくと、いざというときに役立ちます。

おわりに:自分らしい最期は、自分で語ることから

人生会議は、「死を準備する」話ではありません。「これからをどう生きたいか」を、大切な人と一緒に考える時間です。

意思を伝えておくことで、もしものときに自分の希望に沿った医療を受けられる可能性が高まります。家族は「あれでよかった」と納得して見送ることができます。お一人の方なら、信頼できる人や医療者と気持ちをつないでおける。

気持ちは何度変わってもいい。今日決めたことを、明日撤回してもいい。そういう柔らかい話し合いです。

もしこの記事を読んで「ちょっと話してみようかな」と思われたら、ぜひご家族や信頼できる方と、お茶でも飲みながら少しだけ言葉を交わしてみてください。それが、あなたの人生会議の大切な一歩目になります。

参考資料・一次情報