「日本人は世界一の長寿国」
そんな話を、一度は聞いたことがあると思います。
実際、日本人の平均寿命は大きく延びてきました。
2025(令和7)年の平均寿命は、
- 男性:81.35年
- 女性:87.33年
です。
1947(昭和22)年には男性50.06年、女性53.96年でしたから、この長寿化は、医療や公衆衛生、栄養状態などが改善してきた大きな成果といえるでしょう。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。一度生を得て滅せぬ者のあるべきか」
意味:人の世の50年は、天の世界の時間の流れと比べれば、ほんのまぼろしのようなもの。この世に生まれて死なないものなどない。
引用:https://www.nohgaku.or.jp/journey
50年はたしかに短いですね。今や人生100年時代と言われます。
長く生きられるようになったこと自体は、とても喜ばしいことです。
ただ、人生が長くなったからこそ、もう一つ考えておきたいことがあります。
「何歳まで生きるか」だけでなく、何歳まで自分らしく生活できるか。
自分で起きる。歩く。食事をする。買い物に行く。友人に会う。趣味を楽しむ。
できれば住み慣れた場所で、自分の意思や尊厳を保ちながら暮らしていく。
その時間をできるだけ長くするための一つの指標が、「健康寿命」です。
健康寿命と聞くと「健康でいられる期間?」「寝たきりにならないでいられる時間?」
となんとなくイメージはあると思います。
健康寿命とは何なのか。
これからどのような生活を選んでいけばよいのか。
健康寿命という言葉を正しく知ることが、これからの考え方や行動を少しでも良い方向へ変えるきっかけになればと思います。
- 日本人の平均寿命は大きく延び、2025年には男性81.35年・女性87.33年
- 国が主に用いる健康寿命の最新値は2022年の男性72.57年・女性75.45年
- 平均寿命との差は男性8.49年、女性11.63年ですが、この期間ずっと寝たきりになるという意味ではない
- 日本はWHOの健康寿命(HALE)でも世界トップクラスです。ただし、日本国内の健康寿命とは計算方法が違う
- 理学療法士の立場から見ると、健康寿命を考えるときに重要なのは、筋力だけではなく「実際の生活で何ができているか」
- 健康寿命を知る目的は数字を競うことではなく、できるだけ長く自分らしい生活を続けるために、今の行動を考えること。
日本人は「長生き」だけでなく「健康に暮らせる期間」も延びてきた
まず、日本人の平均寿命と健康寿命がこれまでどのように変化してきたのかを見てみましょう。
厚生労働省の資料では、2001年から2022年にかけて次のように変化しています。
| 2001年 | 2022年 | 変化 | |
|---|---|---|---|
| 男性 平均寿命 | 78.07年 | 81.05年 | +2.98年 |
| 男性 健康寿命 | 69.40年 | 72.57年 | +3.17年 |
| 女性 平均寿命 | 84.93年 | 87.09年 | +2.16年 |
| 女性 健康寿命 | 72.65年 | 75.45年 | +2.80年 |
2001年から2022年までの長期的な流れを見ると、平均寿命だけでなく健康寿命も延びています。
しかも、この期間では健康寿命の延びが平均寿命の延びをわずかに上回っています。
これは重要なポイントです。
「医療が発達して、ただ生存期間だけが長くなった」
という単純な話ではありません。
日常生活に大きな制限なく暮らせる期間も長くなってきたのです。
一方、現在も平均寿命と健康寿命との間には差があります。
2022年では、
- 男性:8.49年
- 女性:11.63年
です。
ここをどう考えるかが、この記事の重要なポイントになります。
平均寿命の最新値は2025年、健康寿命は2022年
少しややこしいのですが、平均寿命と健康寿命では最新データの年が違います。
2026年8月時点で平均寿命は2025年値まで公表されており、
- 男性:81.35年
- 女性:87.33年
です。
一方、国が用いる健康寿命の最新値は2022年です。
健康寿命は国民生活基礎調査などをもとに算出されるため、毎年新しい数字が出るわけではありません。
そのため、
2025年の平均寿命-2022年の健康寿命
を計算して「最新の不健康期間」とするのは適切ではありません。
平均寿命との差を見る場合は、同じ2022年の数字同士を比べます。
そもそも「健康寿命」とは?
では、健康寿命とは何なのでしょうか。
厚生労働省が健康日本21などで主に使用している健康寿命は、
「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」の平均
です。
ポイントは、「病気がない期間」ではないということです。
例えば、高血圧や糖尿病の治療を続けながらでも、
- 仕事をする
- 家事をする
- 買い物に行く
- 旅行をする
- 趣味を楽しむ
ことが問題なくできている人はたくさんいます。
反対に、大きな病名がなくても、
- 膝が痛くて買い物に行かなくなった
- 腰痛で掃除が難しくなった
- 体力が落ちて外出しなくなった
- 息切れのため階段を避けるようになった
ということがあります。
「病気があるか」よりも、「その人の生活にどれくらい影響しているか」。
健康寿命は、そこに目を向けた指標です。
どうやって健康寿命を計算しているの?
国民生活基礎調査では、
「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」
と質問します。
「ない」と回答した人を健康、「ある」と回答した人を不健康として、年齢ごとの死亡率などと組み合わせて健康寿命を推計します。
そのため、健康寿命は血液検査の数値や介護認定だけで決めているわけではありません。
本人が「健康上の問題によって自分の生活が制限されているか」も含めて評価しているのです。
平均寿命との差8~12年は「寝たきり期間」ではない
健康寿命について、最も誤解されやすいのがここです。
平均寿命と健康寿命との差について、
「男性は約9年、女性は約12年間も介護されて生活する」
と説明されることがあります。
しかし、これは正確ではありません。
8~12年間ずっと寝たきり・要介護になる、という意味ではありません。
健康寿命は、一人ひとりを亡くなるまで追跡して、
「亡くなる直前の何年間が寝たきりだったか」
を測った数字ではありません。
年齢別の死亡率と、その年代で日常生活に制限を感じている人の割合を使って算出した集団の統計指標です。
例えば、
- 腰痛のため重い買い物を家族に頼むようになった
- 膝痛のため階段を避けている
- 体力低下で遠出をしなくなった
- 病気のため仕事や運動の内容を制限している
といった状態も含まれ得ます。
つまり、
「平均寿命-健康寿命=介護される期間」
ではありません。
▶︎関連記事:要介護になる原因ランキング|介護の入り口と予防法
「健康寿命」には実はいくつかの種類がある
健康寿命を調べていると、
「男性72歳と書いてあるページもあれば、80歳を超えている資料もある」
ということがあります。
間違いではありません。
何を「健康」と定義するかによって数字が変わるからです。
| 指標 | 健康とする状態 | 特徴 |
|---|---|---|
| 日常生活に制限のない期間 | 健康問題による生活上の制限がない | 国の健康寿命の主指標 |
| 自分が健康であると自覚している期間 | 自分の健康状態を「よい~ふつう」と回答 | 主観的健康を反映 |
| 平均自立期間 | 介護保険で要介護2未満 | 自治体比較などで使用 |
平均自立期間では、要介護2以上を「不健康」として計算するため、要支援1・2や要介護1の人も「自立」に含まれます。
これに対して、厚生労働省方式では、介護認定を受けていなくても「腰痛で買い物ができない」など本人が生活上の制限を感じていれば、不健康な状態として反映される可能性があります。
どちらが正しいということではありません。
測っているものが違うのです。
この違いを知っておかないと、健康寿命ランキングを見たときに混乱します。
日本の健康寿命は世界と比べて長い?
では、日本は世界と比べるとどうなのでしょうか。
WHO(世界保健機関)もHALE:Healthy Life Expectancyという健康寿命に近い指標を公表しています。
2021年の男女合計値では、上位は次のようになっています。
| 順位 | 国 | WHO健康寿命(HALE) |
|---|---|---|
| 1位 | シンガポール | 約73.6年 |
| 2位 | 日本 | 73.4年 |
| 3位 | 韓国 | 72.5年 |
| 4位 | アイスランド | 71.4年 |
| 5位 | ルクセンブルク | 71.2年 |
日本は世界でもトップクラスです。
ただし、ここにも注意点があります。
WHOのHALEは、さまざまな病気や障害による健康損失を重みづけして推計する指標です。
日本の厚生労働省が主に使う、
「健康上の問題で日常生活に制限のない期間」
とは計算方法が違います。
世界比較でも都道府県比較でも、「何を健康として計算した数字なのか」を確認することが大切です。
健康長寿県・長野県は本当に全国1位?
長野県は「健康長寿県」として知られています。
ただし、ここでも指標によって順位が変わります。
厚生労働省が主指標としている「日常生活に制限のない期間の平均」の2022年値を見ると、
| 長野県 | 全国順位 | |
|---|---|---|
| 男性 | 72.73年 | 18位 |
| 女性 | 75.57年 | 23位 |
です。
つまり、この健康寿命では長野県は全国1位ではありません。
2022年のトップは、
- 男性:静岡県 73.75年
- 女性:静岡県 76.68年
でした。
一方、「平均自立期間」では長野県が男女とも全国1位
ところが、介護保険の要介護度を使った平均自立期間では話が変わります。
2023年値では、
| 長野県 | 全国 | 全国順位 | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 81.2年 | 79.7年 | 1位 |
| 女性 | 84.9年 | 84.1年 | 1位 |
となっています。
女性は8年連続、男性は3年連続で全国1位です。
参考:長野県の「健康寿命」(令和5年値)、女性が8年連続、男性が3年連続で全国1位となりました
これこそ、
「健康寿命は定義によって数字も順位も変わる」
ことをよく表している例だと思います。
理学療法士から見ると、健康寿命で大切なのは「生活機能」
ここからは、理学療法士として特に伝えたい部分です。
リハビリでは、
- 筋力
- 関節の動き
- 歩行速度
- バランス能力
などを評価します。
もちろん、これらは大切です。
もっと重要なのは、
その身体を使って、実際の生活で何ができているのか。
ということです。
例えば、100m歩く能力があったとしても、
- 買い物には行かない
- 庭仕事をやめた
- 友人に会わなくなった
- 家の中でほとんど座っている
のであれば、生活の中で身体を使う機会は減っています。
反対に、膝や腰に多少の問題があったとしても、
- 自分で朝食を作る
- 近所の店へ買い物に行く
- 孫の送り迎えをする
- 友人と出かける
- 仕事や地域活動を続ける
ことができていれば、その人の生活機能は保たれています。
「全部一人でできること」だけが自立ではない
もう一つ大切なのは、
自立=誰の助けも借りずに全部自分ですること
ではないということです。
杖を使う。
手すりを取り付ける。
補聴器を使う。
家族に重い買い物だけ手伝ってもらう。
公共交通や介護サービスを利用する。
そうした支援を使いながらでも、
自分で選び、自分の役割や生活を続けられることには大きな意味があります。
WHOも健康な老化を、単に病気がない状態ではなく、
「本人が大切だと思うことを実行できる能力=Functional Ability(生活する能力)」
を維持することとして捉えています。
この能力は本人の身体だけでなく、住環境、交通、人とのつながり、社会制度などとの相互作用によって決まります。
これは理学療法の考え方とも非常に近いものです。
「できなくなったこと」より先に「しなくなったこと」に気づく
健康状態が悪化するとき、いきなり要介護になるとは限りません。
その前に、
- 歩く速度が遅くなった
- 椅子から立つときに手を使うようになった
- 階段を避けるようになった
- 買い物の回数が減った
- 料理をしなくなった
- 外出がおっくうになった
- 友人と会わなくなった
といった、小さな変化が起きていることがあります。
特に見逃したくないのは、
「出来ない」になる前の「しなくなった」
しなくなると、いつのまにか「出来なくなる」ことが多々あります。
ふと思いついたのが、床からの立ち上がり動作。
和式生活から洋式に変わって長年経つ方なんかはわりと出来なくなります。
生活の中から活動が一つずつ減っていくと、身体を使う機会も減ります。
その結果、さらに体力が落ちて活動しなくなる、という悪循環に入ることがあります。
健康寿命を延ばすために、今から意識したいこと
今より少しでも身体を動かす
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者に、
歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日40分程度
行うことが推奨されています。
歩数では約6,000歩が目安です。
今ほとんど歩いていない人なら、
- 10分散歩する
- 近所の店まで歩く
- 家事を一つ増やす
- 座っている時間を少し減らす
ところからでも構いません。
ウォーキングだけでなく筋力・バランスも保つ
同ガイドでは、
- 筋力トレーニング:週2~3日
- 筋力・バランス・柔軟性などを含む多要素運動:週3日以上
も推奨されています。
例えば、
- 椅子からの立ち座り
- スクワット
- かかと上げ
- 体操
- 安全な範囲でのバランス練習
などです。
ウォーキングは大切ですが、
「毎日歩いているから筋力やバランスも十分」
とは限りません。
自分でできる生活動作を必要以上に手放さない
これは介護予防でも非常に重要です。
料理、洗濯、掃除、買い物、着替え、庭仕事
これらは単なる「家事」ではなく、身体を使う立派な活動でもあります。
もちろん、危険なことまで無理に本人にさせる必要はありません。
一方で、
「高齢だから」と周囲が何でも代わりにやってしまうと、本人が身体を使う機会そのものが減ってしまいます。
できることは続ける。
難しくなったところだけ支援する。
そのバランスが重要です。
聞こえ・視力・病気の管理も「生活」の問題として考える
健康寿命は筋肉だけで決まりません。
例えば、耳が聞こえにくくなると、
「会話が面倒」
「集まりに行っても聞き取れない」
という理由から、人との交流や外出そのものが減ることがあります。
高血圧や糖尿病なども、症状が少ないまま脳卒中や心血管疾患のリスクを高めることがあります。
病気をゼロにすることだけでなく、病気を管理して生活への影響を小さくする。
これも健康寿命を考えるうえで重要です。
外出する理由、人と関わる理由をなくさない
「健康のために歩いてください」
と言われても、毎日目的もなく歩き続けるのは簡単ではありません。
一方で、
- 仕事に行く
- スーパーへ買い物に行く
- 友人に会う
- 孫を迎えに行く
- 趣味の集まりへ行く
- 地域活動に参加する
という目的があれば、自然に身体を使います。
外出すれば、
歩く・着替える・予定を覚える・人と話す
といったさまざまな活動が同時に生まれます。
「健康のためだけに運動する」のではなく、
やりたいことを続けるために、身体を使い続ける。
この考え方の方が、生活にはなじみやすいと思います。
本人の努力だけでなく「暮らす環境」も大切
外出したくても、
- 歩道がない
- 近くに店がない
- 車を運転できなくなると移動できない
- 坂道ばかり
- 地域に集まれる場所がない
という環境では、外出を続けることは難しくなります。
反対に、
- 歩きやすい道
- 近くのスーパー
- 公園
- 公共交通
- 通える場所
- 人とのつながり
があれば、生活そのものが身体活動や社会参加につながります。
▶︎関連記事:住む場所で健康は変わる?健康寿命を支える地域の条件
健康寿命を知ることは、これからの生き方を考えること
80代、90代でも自分らしい生活を続けている人はいます。
一方で、60代から生活に大きな制限が出る人もいます。
だから、個人にとって重要なのは、
「健康寿命の平均値を超えること」ではありません。
これから先、自分はどんな生活をできるだけ長く続けたいのか。
そこから逆算して考えることだと思います。
自分で歩いて近所へ行きたい。旅行を続けたい。
畑仕事をしたい。孫と遊びたい。
仕事を続けたい。友人と食事に行きたい。
住み慣れた家で暮らしたい。
人によって「自分らしい生活」は違います。
病気を完全になくすことはできないかもしれません。
年齢とともに筋力や体力が落ちることもあります。
それでも、
治療する。身体を動かす。
道具を使う。人の助けを借りる。住環境を変える。
そうすることで、自分で選べること、自分でできることを長く残せる場合があります。
健康寿命を意識する意味は、
これからも尊厳を持って、自分らしく暮らしていくために、今できる選択を一つずつ増やしていくこと。
そのために健康寿命という数字を使っていただければと思います。
まとめ|長生きできる時代だからこそ「どう生きるか」を考えたい
- 2025年の日本人の平均寿命は男性81.35年・女性87.33年
- 健康寿命の最新値は2022年の男性72.57年・女性75.45年
- 2001年以降、平均寿命だけでなく健康寿命も延びてきた
- 平均寿命との差8.49年・11.63年は寝たきり期間を意味しない
- 健康寿命には複数の定義があり、ランキングを見るときには注意
長く生きられるようになったことは、社会にとって大きな進歩です。
だからこそ、その長くなった人生を、
どのように生きるか。
という視点が、これまで以上に重要になっています。
「自分は何を続けて生きていきたいのか」
健康寿命について知った今日を、
10年後、20年後も自分らしく暮らすために、
「今の生活で何を一つ変えられるだろう」
と考えるきっかけにしてみてください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「健康寿命の定義と算出方法」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」
- 厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)」
- WHO Global Health Observatory「Healthy Life Expectancy(HALE)」
- WHO「Healthy ageing and functional ability」
- 国民健康保険中央会「平均自立期間」
- 長野県「長野県の『健康寿命』(令和5年値)」
※本記事は2026年8月時点で確認できる厚生労働省、WHO、国民健康保険中央会、長野県等の公的資料をもとに、現役理学療法士が一般向けに整理しています。健康寿命は集団を評価する統計指標であり、個人が何歳まで健康でいられるかを予測するものではありません。また、運動や健康管理の適否には個人差があります。病気、痛み、息切れ、急な身体機能低下などがある場合は、医師や理学療法士等の専門職へご相談ください。
