老後の暮らしとお金

高齢者の運転は本当に危ないの?データで見る事故と免許返納の最新情報

「最近、車に小さな傷が増えた気がする」「親の運転に同乗して、ヒヤッとした」——。
高齢のご家族がいる方なら、一度はそんな場面に出くわしたことがあるのではないでしょうか。かといって「免許を返して」と切り出せば、親の生活の足を奪うことになるかもしれない。こんな板挟み、ありませんか?

この記事の大事なこと

  • 75歳以上の死亡事故率は、75歳未満の約2倍
  • 75歳以上の返納率は約3.1%で6年連続低下
  • 「認知機能検査を通った=安全」ではない
  • 85歳前後は運転を見直す大きな節目
  • 返納後の要介護リスクにも注意
  • 大切なのは「返す・返さない」の二択ではなく、車の安全装置と代替の移動手段をセットで準備すること

警察庁の発表によると、2025年(令和7年)の運転免許の自主返納は43万5,067件と2年連続で増えました。ところが同じ発表で、75歳以上の返納は26万915件と前年より約4,000件減少しています(出典:警察庁 2026年3月19日発表)。

この記事では、最新の確定データと2025年に相次いだ事故事例をもとに、「うちの親は大丈夫?」「返納したら生活はどうなる?」という2つの不安に、現場の視点も交えてお答えします。

データを正しく知れば、家族で落ち着いて話し合う土台ができます。一緒に見ていきましょう。

免許返納、いま何人が返しているの?【2026年最新データ】

まず件数から見てみましょう。免許の自主返納制度が注目されたのは、2019年の池袋暴走事故がきっかけでした。この年の返納は60万1,022件と過去最多を記録。その後は減少が続きましたが、2024年に42万7,914件と5年ぶりに増加へ転じ、2025年は43万5,067件と2年連続の増加となりました(出典:警察庁)。

 

〔図表:警察庁「運転免許の申請取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移」より〕

ただし中身を見ると、様子が違います。返納の中心であるはずの75歳以上の返納件数は26万915件で、前年より4,001件減少しているのです。

返納「率」は6年連続で低下している

件数以上に注目したいのが「返納率」——つまり、75歳以上の免許保有者のうち何%が返納したか、です。

75歳以上の返納率
令和元年(2019) 5.04%
令和7年(2025) 約3.12%(6年連続低下)

※令和7年の返納率は、75歳以上の返納26万915件(警察庁発表)÷ 75歳以上の免許保有者835万427人(運転免許統計 令和7年版)で筆者算出

なぜこうなるのか。答えはシンプルで、75歳以上の免許保有者そのものが835万人まで増え続けているからです。返す人の数はほぼ横ばいでも、分母が膨らみ続けているため、率で見ると6年連続の低下。ある調査では、高齢ドライバーの9割弱が「返納を考えたことがない」と答えています。

背景にあるのは、やはり地方の移動手段の問題です。長野県警の担当者も、恵那山トンネルの逆走事故(後述)の取材に対し、「バスがない地域では積極的に返納を呼びかけづらい」と率直に語っています(出典:NBS長野放送)。

私の勤務する施設でも、送迎の話になると「車がないと病院にも買い物にも行けない」という声を本当によく聞きます。返納が進まないのは「わがまま」ではなく、生活の切実な事情なのだと現場で感じます。

高齢ドライバーは本当に「危険」なのか?最新データで検証

ニュースで高齢ドライバーの事故が報じられるたび、「高齢者の運転は危ない」というイメージが強まります。実際はどうなのでしょうか。

交通事故そのものは過去最少を更新中

2025年(令和7年)の全国の交通事故死者は2,547人。前年より116人(4.4%)減り、1948年の統計開始以来、過去最少を更新しました。うち65歳以上は1,423人で全体の55.9%です(出典:警察庁「令和7年中の交通事故死者数について」2026年1月6日)。

年齢別の死亡事故率|75歳以上は「75歳未満の約2倍」

では、運転者としてのリスクはどうでしょうか。免許保有者10万人あたりの死亡事故件数(令和5年)を見てみます。

年齢層 10万人あたり死亡事故件数
全年齢 2.87件
30〜39歳 ※ 1.9件(全年齢層で最低)
40〜49歳 ※ 2.4件
50〜59歳 ※ 2.4件
65〜69歳 3.18件
70〜74歳 2.92件
75〜79歳 4.19件
80〜84歳 5.67件
85歳以上 9.75件

出典:令和6年交通安全白書 特集第33図 ※30〜50代は同白書 第1-22図(10歳刻みの区分)より

最も低いのは30代の1.9件で、いわば「現役世代の水準」は2件前後。75歳以上はその約2倍以上にあたります。一方で、16〜19歳は7.6件と、80〜84歳(5.67件)を上回る高さです。事故率が高いのは高齢者だけではないことも、あわせて知っておきたいところです。

そして、この表でひときわ目を引くのが85歳以上の9.75件です。全年齢平均(2.87件)の約3.4倍、現役世代と比べれば約5倍。75歳から上がり始めた事故率は、85歳を超えると別格の水準に跳ね上がります。

85歳以上の死亡事故率は全年齢平均の約3.4倍。「75歳以上」とひとくくりにせず、85歳前後は運転を見直す大きな節目と考えるべきです

最新の令和7年の分析でも、75歳以上の運転者による死亡事故は397件(前年比3.2%減)、10万人あたり4.8件で75歳未満(2.5件)の約2倍(1.92倍)でした。

75歳以上のドライバーによる死亡事故では、「操作不適」(アクセルとブレーキの踏み間違いなど)が最も多く(33.1%)、75歳未満の約3.1倍に達します。ブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故は75歳以上が31件、75歳未満が15件です。(出典:警察庁「令和7年における交通事故の発生状況」

つまり、「70代前半までは全年齢平均と大差ない。しかし75歳から上がり始め、85歳以上では明らかに高くなる」——これがデータの示す実像です。リスクは一律ではなく、年齢とともに段階的に、そして85歳を境に急激に高まります。

「認知機能検査を通っていても」事故は起きる|99歳逆走事故が示すもの

2025年6月11日、中央道の恵那山トンネルで、長野県内の99歳男性が運転する車が逆走し、対向車と正面衝突する事故が起きました。相手の運転手は大けが。男性は買い物帰りに道に迷い、高速道路に進入してしまったと報じられています(出典:NBS長野放送)。

この事故で見過ごせないのは、男性が2025年3月に免許を更新したばかりで、認知機能検査もクリアし、ゴールド免許だったという点です。

認知機能検査は「認知症のスクリーニング」であって、「安全に運転できる」ことの保証ではありません。

裏付けるデータもあります。警察庁の調査研究では、死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち、直近の認知機能検査で「認知機能低下のおそれなし」と判定されていた人が約6割を占めていました(出典:警察庁「高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究」・2019年データ)。

高速道路の逆走も、実は「認知症の人だけの問題」ではありません。2024年の逆走件数は220件、うち事故に至ったのは50件で、死亡・負傷を伴う重大事故は14件と前年より増えています。そして逆走の発端の約5〜6割は「道の間違い」——つまり、加齢による判断力の低下があれば誰にでも起こりうるのです(出典:国土交通省 高速道路逆走対策有識者委員会 資料)。山形県では2026年に入ってからも1〜5月だけで高速道路等の逆走が9件確認されており(さくらんぼテレビ報道)、逆走はいまも続いている問題です。

 

高速道路の逆走事例も大変危険ですね💦

〈2024年の逆走した運転者の年齢〉
2024.1〜2024.12 計(全220件の内訳)

出典:高速道路における逆走の発生状況

 

同じ2025年の5〜6月には、長野県内でも御代田町で76歳女性の車がスーパー駐車場で暴走(5月2日)、長野市では91歳男性の車が駐車場出口で外壁に衝突し、助手席の84歳の妻が亡くなる事故(6月17日)が相次ぎました(いずれも報道より)。長野市の事例が示すように、75歳以上の死亡事故では「誰かを死なせてしまう」以上に、本人や同乗する家族が亡くなるケースが多い傾向があります。「加害者になるのが怖い」だけでなく、「自分と家族を守る」ためのテーマでもあるのです。

長期的には確実に改善している

暗い話が続きましたが、長い目で見ると状況は着実に良くなっています。85歳以上の死亡事故率は平成25年の20.26件から令和5年には9.75件とほぼ半減(出典:令和6年交通安全白書)。背景のひとつが、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時の加速抑制装置といった「サポカー」技術の普及です。新車への搭載率はすでに9割を超え、踏み間違いによる事故・負傷者はこの10年でほぼ半減しました(出典:国土交通省)。

免許を「返してもらう」だけが答えではない理由

返納後の生活リスクも知っておいてほしいことです。

国立長寿医療研究センターの調査によると、運転をやめた高齢者が要介護状態になるリスクは、運転を続けている人の約8倍という結果が出ています。

(出典:国立長寿医療研究センター

ただし、この数字の解釈には注意が必要です。「運転をやめたから要介護になった」とは限りません。もともと体が弱くなった人ほど先に免許を返納する、という逆の因果関係(交絡)が大きく影響している可能性があります。

それでも見落とせない事実として、代替の移動手段がない高齢者が運転をやめると、外出機会が減少することは複数の研究で確認されています。

外出が減ると:

  • 筋力・体力が低下しやすくなる
  • 社会とのつながりが薄れ、認知機能が低下しやすくなる
  • 買い物・通院が困難になり、生活の質が落ちる

特に、公共交通が乏しい地方では深刻な問題です。車がないと生活が成り立たないケースも少なくありません。

「返納を促す前に、代替手段を一緒に考える」という順序が大切だと思います。

運転をやめた途端に外出が減り、みるみる足腰が弱ってしまった方を、私はリハビリの現場で何人も見てきました。「免許を返す」と「閉じこもる」がセットにならないよう、返納の前に移動手段の準備をすることが本当に大切です。

「いつ返すか」を考えるためのヒント

75歳以上の免許更新のしくみ

制度として知っておきたいこともあります。

75歳以上の運転免許更新で義務化されていること

・認知機能検査(記憶・判断力の簡易テスト)
・高齢者講習(実車を使った運転能力確認)
・認知症のおそれありと判定された場合 → 医師の診断が必要
(2022年5月施行 改正道路交通法)

車の側の安全対策が進んでいる|踏み間違い防止装置の義務化へ

「返すか、乗り続けるか」の間に、実は第3の選択肢が広がりつつあります。車そのものを安全にするという方向です。

ペダル踏み間違い時加速抑制装置(ACPE)は、2028年9月1日以降に発売される新型のAT乗用車(輸入車は2029年9月1日以降)への搭載が義務化されます。これは日本発の技術が国連基準として採択されたもの(2024年11月)で、2026年1月にはさらに基準が強化され、停止時だけでなくクリープ走行時の急加速の抑制や、歩行者の検知も対象に加わります(新型車は2030年9月〜)(出典:国土交通省 報道発表 2025年6月17日・2026年1月9日)。

「でも、うちの車は古いから…」という方には、後付けの急発進抑制装置があります。国土交通省の性能認定を受けた製品(「ペダルの見張り番」「アクセル見守り隊」など)が数万円程度から販売されています。

国の「サポカー補助金」は2021年11月に受付を終了しており、現在、全国一律の国の補助制度はありません(出典:次世代自動車振興センター)。ただし、自治体独自の補助制度が各地で続いています(例:愛知県豊田市は装置価格の9割・上限6万円)。制度の有無や条件は自治体ごとに異なるため、「お住まいの自治体名+急発進抑制装置 補助金」で検索するか、役所の交通安全担当窓口に確認してみてください。

運転を見直すサイン|家族で確認したいチェックリスト

恵那山トンネルの事例が教えてくれるのは、「検査に通ったかどうか」よりも、日常の運転を一番近くで見ている家族の観察が大切だということです。

ひとつ付け加えたいデータがあります。高齢者の死亡事故は自宅から500m以内で起きているものが多いという警視庁の分析です。「毎日通る慣れた道だから大丈夫」ではなく、買い物や通院といった生活動線上の「慣れた道こそ危ない」——これは、体の変化に気づきにくいというリハビリの現場感覚とも重なります。

 

まとめ|「返す・返さない」の前に、データと準備を

  • 2025年の免許自主返納は43万5,067件で2年連続増。しかし75歳以上の返納率は約3.1%で6年連続低下——保有者835万人という母数の増加が背景にあります
  • 75歳以上のリスクは75歳未満の約2倍85歳以上は全年齢平均の約3.4倍。そして認知機能検査を通っていても事故は起きます。検査より、家族の日常観察を
  • 2028年からは踏み間違い防止装置の新車搭載が義務化。後付け装置+自治体補助という選択肢も
  • 返納を考えるなら、移動手段の準備が先。「運転をやめる=閉じこもる」にしないことが健康寿命を守ります

免許の話は、親子ゲンカになりやすいテーマです。でも、正確なデータと「返したあとの生活の絵」があれば、話し合いはぐっと前向きになります。まずは次の帰省や通院の付き添いのとき、助手席から運転の様子をそっと観察することから始めてみませんか。

参考文献・出典一覧

本記事は警察庁・国土交通省・内閣府などの公的情報に基づき、現役理学療法士が執筆しています。運転の継続・免許返納など個別の判断については、かかりつけ医や運転免許センター等の専門機関にご相談ください。