「転ばないように気をつけてね」と声をかけても、何を変えればよいのかまでは伝わりにくいものです。家族ができることの一つは、親が普段どこを歩き、どんな動作に困っているのかを一緒に確かめることです。
10月10日は「転倒予防の日」。
この記事では、この日を実家の点検のきっかけにして、家の中で確認したい場所と対策を紹介します。私自身も退院前訪問、サービス担当者会議や入所前後訪問、退所前訪問、訪問リハビリ等で恐らく100軒以上のお家にお邪魔してきました。その経験を踏まえ、理学療法士の視点で整理しました。
もちろん、点検は一年中いつでも始められます。
転倒予防は、体の状態と家の環境をセットで考える。
実家では、居間の環境を中心に、床の物・夜間の照明・立ち座りのしやすさなどを確認する。
転倒経験やふらつきがある場合は、家の点検と専門職への相談を進める。
転倒予防の日に見直したい「慣れた家」の安全
長年住み慣れた家は、物の場所も歩く経路も分かっています。しかし、年齢とともに足の上がり方やバランス能力、見え方などが変化すると、以前は何ともなかった場所が転倒の原因になることがあります。
筑波大学の山田実教授らが2024年に発表した研究では、地域で暮らす高齢者1,074人の転倒1,695件を分析しています。
その結果、比較的若い高齢者では屋外でつまずいたり、滑ったりする転倒が多い一方、年齢が高くなるほど屋内での転倒が多くなり、バランスを崩すなどの転び方が目立つことが報告されました。
この研究からも、年齢を重ねるほど、毎日生活する家の中の安全に目を向けることが大切だと分かります。
家の中の転倒対策というと、階段や浴室の段差を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、意外と見落としやすいのが、毎日長い時間を過ごす「居間」です。
テーブルの周りに置いた物、めくれたカーペット、ソファから立ち上がるときの足元など、何気ない生活の中にも転倒につながる危険が潜んでいます。
転倒予防の日をきっかけに、まずは普段過ごしている場所から見直してみましょう。
家の点検は、親の「今の動き」に合わせて。
家が変わっていなくても、そこで暮らす人に合う環境は変わっていきます。
実家の転倒予防チェック|確認したい10項目
帰省したら、まず「最近、転びそうになった場所はある?」と聞いてみてください。けがをした転倒だけでなく、足を引っかけた、つかまって踏みとどまった、といった経験も点検の手がかりになります。
以下は、消費者庁や米国疾病予防管理センター(CDC)の資料などを参考に、家族向けに整理したチェック表です。点数で危険度を判定する検査ではありません。気になる場所から、本人と相談して見直しましょう。
| 場所・物 | 確認すること | 見直しの例 |
|---|---|---|
| 玄関 | 靴が散らばっていないか。靴の脱ぎ履きでふらつかないか。 | 足を置く場所を空ける。必要に応じて、安定した椅子や手すりを検討する。 |
| 廊下 | 荷物をよけたり、横向きになったりして通っていないか。 | よく通る経路から荷物を移す。杖や歩行器を使う場合は、その幅も確保する。 |
| 居間 | 座椅子やソファから立つとき、何度も勢いをつけていないか。 | 座面の高さや硬さ、肘掛けの使いやすさを本人に合わせて見直す。 |
| コード類 | テレビや充電器などのコードが通り道を横切っていないか。 | 家電の位置や配線を変え、コードをまたがずに歩けるようにする。 |
| 敷物・段差 | マットの端がめくれていないか。敷居につまずいていないか。 | 不要な敷物を減らす。使う物はずれやめくれを防ぐ。段差対策は動作を見て検討する。 |
| 浴室・脱衣所 | 床に水や泡が残っていないか。浴槽の出入りにつかまる場所があるか。 | 床を整え、手すりや入浴用いすを検討する。マット自体のずれにも注意する。 |
| トイレ | 立ち座りや衣服の上げ下げで、体がぐらつかないか。 | 動作に合う位置の手すりを検討する。タオル掛けなどを支え代わりにしない。 |
| 寝室・照明 | 寝床から照明に手が届くか。トイレまで暗い区間がないか。 | 手元で点灯できる照明や足元灯を用意し、寝具が通路にはみ出さないようにする。 |
| 階段・収納 | 階段に物を置いていないか。高い棚の物を椅子に乗って取っていないか。 | 階段を空け、手すりのぐらつきを確認する。よく使う物は無理なく届く高さへ移す。段の視認性を高くする。 |
| 履物 | スリッパが脱げかけていないか。靴下で床を滑っていないか。 | 足に合い、脱げにくい履物を検討する。実際の床で歩きやすさも確認する。 |
参考:消費者庁「高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう!」(2026年)、CDC「Check for Safety」、英国NHS「Falls」
昼の点検に加えて、夜のトイレまでの経路を確認する
昼間に十分明るい廊下でも、夜は様子が変わります。寝床を出てからトイレに着くまで、どこで照明をつけるのか、途中に物や段差がないかを確認しましょう。
まず家族が照明と通路を点検し、親に無理な歩行をさせず、普段の使い方を聞きます。寝床のそばだけ明るくしても、廊下の途中が暗ければ対策が途切れてしまいます。足元灯は、足を下ろす場所や進む方向が見えるかまで確かめてください。
「片づけたら歩きにくくなった」を防ぐ
家族の判断で家具を一度に動かす前に、親が何につかまり、どの順番で移動しているかを聞いてみましょう。普段使っていた支えをなくすと、移動の仕方も変わります。
ぐらつく家具を支えにしている場合は、そのまま残すのではなく、手すりなどへの置き換えを専門職と検討します。片づけの目標は、本人が安全に動きやすい家にすることです。
伝い歩きのために、あえてタンスを開けておくという方もいました。

家の環境を変えると、転倒は減るの?
住環境の見直しには、研究による裏づけがあります。2023年のコクランレビューは、住環境などへの介入を調べた22件の試験をまとめたものです。
転倒経験があるなど、転倒リスクの高い高齢者を対象とした9件の試験では、家の危険を評価して減らす取り組みにより、一定期間に起きた転倒の回数が、比較群より相対的に約38%少なくなりました。
これは、専門職による評価や、その人に合わせた環境・行動の調整を含む取り組みの結果です。「家族が片づければ骨折が38%減る」という意味ではありません。リスクで対象者を選ばなかった研究群では、同様の効果は確認されていませんでした。
出典:Clemson L, et al. Environmental interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;3:CD013258.
一度転んだら、家の環境を見直す機会です。
転んだ場所と、そのときの動作を伝えると、専門職も具体的な対策を考えやすくなります。
理学療法士の視点|「場所」と「動作」を一緒に見る
同じ段差でも、足を持ち上げやすい人と、杖を使って慎重に移動する人では、必要な対策が違います。国際的な転倒予防ガイドラインでも、本人の能力や行動を踏まえた住環境の調整が推奨されています。
出典:Montero-Odassoら「世界転倒予防・管理ガイドライン」(2022年)
たとえば「トイレで危なかった」と聞いたら、入口の段差なのか、便座から立つときなのか、ズボンを上げるときなのかを確かめます。段差をなくす対策と、立ち上がりを支える対策では、工夫する場所が変わります。
家族が相談するときは、「どこで・何をしていて・どうなったか」をメモしておくと役立ちます。「廊下で転んだ」よりも、「夜、トイレに急ぐ途中で敷居に足を引っかけた」と伝えられると、改善点を絞りやすくなります。
手すりも、取り付ければ完了ではありません。握りやすい位置にあるか、立つときと座るときの両方で使えるかなど、設置後の使いやすさまで確認しましょう。
筋力・見え方・薬も、合わせて確認する
転倒には、筋力やバランス、視力、血圧、病気、薬の影響などが関わります。家の中を整えてもふらつきが続く場合は、体の状態を確かめることが必要です。
最近見えにくくなった、立ち上がるとふらっとする、薬が変わってから眠気が強い、といった変化は、かかりつけ医や薬剤師に伝えてください。薬は自己判断で中止せず、見直しが必要か相談しましょう。
運動は、筋力とバランスの両方を考える
運動による転倒予防を調べたコクランレビューでは、バランスや日常動作を練習する運動、これらと筋力トレーニングを組み合わせた運動の効果が示されています。散歩や筋トレだけで、転倒予防に必要な練習をすべて補えると考えないことが大切です。
たとえば、椅子から立つ、方向を変える、一歩を踏み出すといった動作は、生活と直接つながる練習になります。すでにふらつきがある人は、自己流で片脚立ちなどを始めず、理学療法士などに支えの使い方や難易度を調整してもらいましょう。
転倒予防の目標は、安心して動き続けられること。
家の危険を減らす工夫と、その人に合った運動を組み合わせて考えましょう。
転倒を繰り返すとき・改修したいときの相談先
転倒やふらつきは、次の受診で具体的に伝える
英国の2025年のガイドラインでは、過去1年間に2回以上転んだ人などを、詳しい転倒評価の対象としています。転倒を繰り返す、転んだときに意識を失った、自力で起き上がれなかった、といった場合は、けがの有無に加えて原因の確認が必要です。
「年だから」で済ませず、転倒した日や状況をかかりつけ医に伝えましょう。転倒後に強い痛みがあって立てないなど、大きなけがが疑われるときは、無理に起こさず救急対応を求めてください。
参考:YouTube IMSグループ医療・介護のお役立ちサイトチャンネルより
手すりや段差の改修は、工事の前に相談する
住環境の相談は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターが窓口になります。地域包括支援センターは、高齢者や家族の相談、介護予防の支援を行う機関です。「家で転びそうになっているので、生活環境を見直したい」と伝えてみましょう。
要支援・要介護認定を受けている人では、手すりの取り付けや段差の解消などに、介護保険の住宅改修を利用できる場合があります。対象工事費の支給限度基準額は原則20万円で、その7〜9割が給付対象です。20万円がそのまま支給される制度ではありません。
原則として工事前の申請が必要なので、先に工事を始めず、自治体やケアマネジャーへ確認してください。
出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修の概要」(2026年3月)
まとめ
実家の転倒予防では、危ない物を探すことに加えて、親がどんな場面で動きにくくなっているかを知ることが大切です。玄関や浴室だけでなく、いつもの居間や寝室にも目を向けてみましょう。
最初から家中を変える必要はありません。次に実家へ行ったら、「最近、転びそうになったことはある?」と聞き、よく通る経路を一つ見直すところから始めてください。気になる動作があれば、その場面をメモして専門職への相談につなげましょう。
これまで理学療法士として、100軒以上のご自宅にお邪魔してきました。
どのお宅にも、そこに暮らす人の人生や大切にしてきたものが詰まっています。
猫ちゃんが何よりも優先のお家。ひ孫さんが元気に遊び回るから、ポータブルトイレは置きたくないというお家。ご主人の長年の趣味の品々でいっぱいのお家。
専門職の立場から見れば「ここを片付けた方が安全なのに」と思うこともあります。でも、私たちが考える「安全」が、必ずしもその人にとっての「心地よい暮らし」とは限りません。
長年暮らしてきた我が家は、ただの建物ではなく、たくさんの思い出が積み重なった大切な場所です。
だからこそ、その人らしい暮らしを大切にしながら、少しでも転倒の危険を減らしていきたいです。
大好きな我が家で、これからも元気に、安心して暮らし続けられると良いですね。
参考文献・出典
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- 消費者庁.10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう! 2020年.
- 筑波大学・介護予防研究室.自宅内の転倒場所と特徴 2024年12月22日.
- Yamada M, et al. Characteristics of falls in Japanese community-dwelling older adults. Geriatrics & Gerontology International. 2024;24(11):1181–1188.
- 消費者庁.Vol.696 高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう! 2026年9月11日.
- CDC. Check for Safety: A Home Fall Prevention Checklist for Older Adults. 2017.
-
- Clemson L, et al. Environmental interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;3:CD013258.
- Montero-Odasso M, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age and Ageing. 2022;51(9):afac205.
- Sherrington C, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2019;1:CD012424.
- NICE. Falls: assessment and prevention in older people and in people 50 and over at higher risk. NG249. 2025.
- 厚生労働省.福祉用具・住宅改修の概要(2026年3月).
本記事は、公的機関の資料や研究論文などの情報をもとに、現役理学療法士が一般向けに解説したものです。個別の症状や治療、介護、制度利用などについては、医師・医療専門職・自治体などの専門機関へご相談ください。

