「最近、背中が丸くなってきた」「以前より身長が縮んだ気がする」「軽く転んだだけなのに骨折した」――そんな変化はありませんか?
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨の強さが低下し、骨折しやすくなる病気です。進行しても自覚症状がないことが多く、骨折して初めて気づく場合もあります。
理学療法士として高齢者のリハビリに関わっていると、骨折をきっかけに歩行や外出が難しくなり、生活が大きく変わる方は少なくありません。
- 骨粗鬆症は自覚症状に乏しく、骨折するまで気づかないことも
- 特に注意したいのは、背骨・太ももの付け根・手首・肩の付け根の骨折
- 予防の基本は、バランスのよい食事、無理のない運動、適度な日光、禁煙・節酒
- 生活習慣だけでは不十分な場合も。対象年齢や危険因子に当てはまる方は、骨密度検査や医療機関への相談を。
この記事では、骨粗鬆症のしくみ、骨折との関係、今日からできる対策、検査を受ける目安を、できるだけ分かりやすく解説します。
1.骨粗鬆症とは?「骨密度」だけの問題ではない
骨粗鬆症は、骨の強度が低下して骨折しやすくなる病気です
骨の強さには、骨量の目安となる「骨密度」だけでなく、骨の構造や材質などの「骨質」も関係します。
骨は、一度作られたら一生そのままではありません。古い骨を吸収する破骨細胞と、新しい骨を作る骨芽細胞が働き、少しずつ作り替えられています。この仕組みを骨リモデリング(骨代謝)と呼びます。
骨は「壊す」と「作る」を繰り返しています
加齢や閉経などによってこのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回る状態が続くと、骨は弱くなっていきます。特に女性は、閉経に伴う女性ホルモンの減少により、骨量が減少しやすくなります。男性も加齢とともに骨粗鬆症が増えるため、無関係ではありません。
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」では、日本の骨粗鬆症有病者数は約1,590万人(女性約1,180万人、男性約410万人)と推定されています。
2.自覚症状が少ない「沈黙の病気」
痛みがないから、骨が丈夫とは限りません
骨密度の低下そのものでは、痛みが出ないことが多いとされています。しかし、骨が弱くなると、立った高さからの転倒など、比較的小さな力でも骨折することがあります。これを脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)といいます。骨折が起これば、痛みが生じる場合があります。
骨粗鬆症で注意したい主な骨折部位
- 背骨(椎体):痛みがはっきりしないまま変形することもあります。
- 太ももの付け根(大腿骨近位部):手術や入院が必要になることが多く、歩行能力や生活に大きく影響します。
- 手首(橈骨遠位端):転倒して手をついたときに起こりやすい骨折です。
- 肩の付け根(上腕骨近位部):転倒時に肩を打った場合などに起こります。
形態的な椎体骨折のうち、約3分の2は無症候性とされています。「以前より身長が縮んだ」「背中が丸くなった」という変化が、椎体骨折の手がかりになることもあります。
3.骨折予防が介護予防につながる理由
骨折・転倒は、介護が必要になる主な原因の一つです
厚生労働省の2025年国民生活基礎調査では、介護が必要になった主な原因は、全体で次の順でした。
出典:厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
つまり、骨折・転倒への対策は、介護予防を考えるうえで重要な柱の一つです。ただし、介護予防が骨折予防だけで完結するわけではありません。認知症、脳血管疾患、フレイル、社会的孤立などにも目を向ける必要があります。
大切なのは、骨折が起きてから対処するだけでなく、骨を守ることと、転びにくい身体・環境を作ることを同時に進めることです。
4.骨を守る食事|カルシウムだけでは不十分
主食・主菜・副菜をそろえ、必要な栄養素を偏りなく摂ることが基本です
骨の健康にはカルシウムが重要ですが、それだけを摂ればよいわけではありません。カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨への取り込みを助けるビタミンKなども必要です。高齢期には、筋肉や骨を保つためのたんぱく質と、十分なエネルギーの確保も欠かせません。
骨の重要な材料
牛乳・乳製品、小魚、小松菜、豆腐など
カルシウムの吸収を助ける
鮭、さんま、いわし、きのこ類など
骨への取り込みを助ける
納豆、緑黄色野菜など
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「骨粗鬆症の予防のための食生活」
5.骨と転倒予防のための運動
運動の目的は、骨への刺激だけでなく、筋力とバランスを保って転倒を防ぐことです
ウォーキングなどの荷重運動や筋力トレーニングは、骨の健康を守る運動として推奨されています。また、下肢筋力やバランス能力を保つことは、転倒予防にもつながります。
特定の一つの運動だけで、特定部位の骨密度が必ず上がるとは言い切れません。年齢、骨密度、骨折歴、痛み、筋力などに応じて、継続できる運動を組み合わせることが大切です。
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「骨粗鬆症予防のための運動」
6.日光とビタミンD|長時間浴びればよいわけではない
ビタミンDには日光が関係しますが、紫外線の浴びすぎにも注意が必要です
ビタミンDは食事から摂取できるほか、皮膚に紫外線B波(UVB)が当たることでも作られます。一般的な窓ガラスはUVBの多くを遮るため、ガラス越しの日光だけではビタミンD産生を期待しにくいと考えられます。
一方で、必要な日光曝露時間は、季節、時刻、地域、天候、肌の色、露出する皮膚の面積などによって大きく変わります。そのため、全国一律に「夏は何分、冬は何分」と断定することはできません。
国立環境研究所のサイトでは、観測地点と時刻ごとに、ビタミンD生成に必要な紫外線曝露時間と、皮膚に紅斑を起こしてしまう目安を確認できます。
👩「ビタミンDは作りたいけど、日焼けはしたくない場合の目安になるのね!」
出典:国立環境研究所「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」、環境省「紫外線環境保健マニュアル」
7.骨密度検査を検討したい人
自覚症状が乏しいからこそ、対象となる方は検査で確認することが大切です
骨密度測定にはDXA法などがあります。健康増進事業として行われる自治体の骨粗鬆症検診は、原則として40・45・50・55・60・65・70歳の女性が対象です。実施の有無、検査方法、費用は自治体によって異なるため、お住まいの自治体へ確認してください。
ガイドラインでは、骨密度測定の対象として、次のような人が挙げられています。
ここでいう危険因子には、低体重、現在の喫煙、過度の飲酒、ステロイド薬の使用、関節リウマチ、親の大腿骨近位部骨折歴などがあります。
また、「若い頃より身長が縮んだ」「背中や腰が曲がってきた」「軽い転倒などで骨折した」「家族に大腿骨近位部骨折をした人がいる」といった場合も、医療機関への相談を考える手がかりになります。
骨密度の数字だけで自己診断しないでください
原発性骨粗鬆症の診断では、骨密度だけでなく、脆弱性骨折の有無や部位、骨粗鬆症以外の病気・薬剤の影響なども確認します。たとえば脆弱性骨折がない場合は、骨密度がYAM(若年成人平均値)の70%以下などが診断基準になりますが、最終的な診断は医師が行います。
すでに骨粗鬆症と診断される状態では、食事や運動だけで骨折リスクを十分に下げられない場合があります。必要に応じて薬物治療を受け、自己判断で中断しないことが重要です。
出典:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版、厚生労働省「骨粗鬆症検査について」
8.よくある質問
身長の低下や背中の丸まりだけで骨粗鬆症とは断定できません。しかし、痛みの目立たない椎体骨折が隠れていることがあります。以前より明らかに身長が縮んだ、背中や腰が痛む、姿勢が急に変わった場合は、整形外科へ相談してください。
まずは整形外科が一般的です。骨密度検査やレントゲン検査などを行い、骨折の有無や骨粗鬆症の可能性を確認します。持病や使用中の薬が原因として疑われる場合は、内科などと連携して調べることもあります。
かかとの超音波検査は、骨の状態を確認するスクリーニングとして利用されますが、その結果だけで骨粗鬆症を確定診断するものではありません。診断では、腰椎や大腿骨近位部を測るDXA法、脆弱性骨折の有無、他の病気や薬剤の影響などを総合して判断します。
骨折リスクはゼロにはなりません。骨の強さには骨密度だけでなく骨質も関係し、年齢、過去の骨折、転倒しやすさ、持病、使用中の薬なども影響します。骨密度の結果だけで安心せず、転倒予防や生活習慣の見直しも続けましょう。
食事と運動は治療の土台ですが、それだけでは骨折リスクを十分に下げられない場合があります。骨折歴や骨密度などからリスクが高いと判断された場合は、薬物治療が重要です。処方薬を自己判断で中断せず、治療方針を医師と相談してください。
9.まとめ|骨と転倒の両方に備える
今日の「おたっしゃ」ポイント
- 骨粗鬆症は、症状がないまま進むことがあります。
- 背骨・大腿骨近位部・手首・上腕骨近位部の骨折に注意が必要です。
- 食事、運動、適度な日光、禁煙・節酒を組み合わせましょう。
- 運動は骨への刺激だけでなく、筋力とバランスを保つ目的でも重要です。
- 対象年齢や危険因子に当てはまる方は、骨密度検査を検討しましょう。
- 骨粗鬆症と診断された場合は、生活習慣だけに頼らず、必要な治療を続けましょう。
骨折を完全に防ぐ方法はありません。しかし、骨の状態を早めに知り、生活習慣を整え、転倒しにくい身体と環境を作ることで、リスクを下げることはできます。
まずは、対象年齢なら自治体の検診を確認する、食事を一品整える、安全な範囲で身体を動かす。できることから一つ始めてみましょう。
10.参考資料・一次情報
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会ほか)
- 日本整形外科学会「骨粗鬆症」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「骨粗鬆症の予防のための食生活」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「骨粗鬆症予防のための運動」
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
- 厚生労働省「骨粗鬆症検査について」
- 国立環境研究所「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や骨折歴がある方、治療中の方は、医師などの医療専門職へご相談ください。
