「最近、背中が丸くなってきた」「昔より身長が縮んだ気がする」「ちょっと尻もちをついただけで骨を折ってしまった」――そんなご経験、身に覚えはありませんか?
年齢を重ねると、多くの方が「骨がもろくなる」病気、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に近づいていきます。ところがこの病気、骨折するまで痛くもかゆくもないという、実にやっかいな性質を持っています。
そして私たち理学療法士が現場で痛感しているのは――「寝たきり」や「要介護」の入口が、たった一度の骨折であることが本当に多いという事実です。
- 骨粗鬆症は「沈黙の病気」。折れて初めて気づくことがほとんど。
- 介護予防とは、つまり骨折予防。そのカギが骨粗鬆症対策です。
- 対策の柱は「食事・運動・日光浴」+「検診」。今日から始められます。
- 日光浴は”直接”が鉄則。ガラス越しではビタミンDは作られません。
この記事では、骨粗鬆症のしくみから、ビタミンDにまつわる意外な豆知識、そして今日から実践できる予防法まで、できるだけわかりやすくお伝えします。
1. 骨粗鬆症ってどんな病気?
骨粗鬆症とは、ひとことで言えば「骨の量が減り、中身がスカスカになって、もろく折れやすくなった状態」です。
骨は、一度できたら一生そのまま…と思われがちですが、実は毎日つくり替えられています。古くなった部分を壊す細胞(破骨細胞)と、新しく作る細胞(骨芽細胞)が、絶えず入れ替え工事をしているのです。これを骨リモデリング(骨代謝)と呼びます。
若いうちは「壊す量」と「作る量」のバランスが取れています。ところが加齢や女性ホルモンの減少などでこのバランスが崩れ、壊す量が作る量を上回ると、骨はだんだんやせ細っていきます。
特に女性は、閉経で「エストロゲン」という骨を守るホルモンが急に減るため、50代以降にガクンと骨量が落ちます。もちろん男性も、70歳を過ぎると進んでいきます。実際、日本の骨粗鬆症の患者さんは約1,590万人(女性1,180万人・男性410万人)と推定されており、男性も「410万人」と、決して他人事ではない数字です。
出典:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会ほか)
2. 「沈黙の病気」の本当のこわさ
骨粗鬆症が「こわい」のは、進行してもまったく自覚症状がない点です。骨は、折れない限り痛みを出しません。
ある日、ちょっと尻もちをついた・重い物を持った・くしゃみをした――たったそれだけで骨が折れてしまう。これを「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と呼びます。
- 背骨(椎体)…最も多い。知らないうちに折れている「いつのまにか骨折」も。
- 太ももの付け根(大腿骨近位部)…寝たきりに直結しやすい最重要ポイント。
- 手首(橈骨遠位端)…転んで手をついたときに。
- 肩の付け根(上腕骨近位部)
出典:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会ほか)
背骨の骨折は、その3分の2が「痛みのないまま」起きているというデータもあります。「なんだか背が縮んだ」「腰が曲がってきた」――それは、実は骨折の跡かもしれません。
そして、いちばん知っておいていただきたいのが「太ももの付け根(大腿骨近位部)の骨折」です。この骨折は、多くの場合手術と入院が必要になり、その後の人生を大きく変えてしまいます。ガイドラインが示す、日本のデータはこうです。
1年後:81%/2年後:67%/5年後:49%/10年後:26%
出典:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会ほか)
骨折をきっかけに動けなくなり、体力・食欲が落ち、他の病気も重なっていく…。「たった一度の転倒骨折」が、寿命そのものを縮めてしまうことが、この数字からも読み取れます。
しかも骨折は「連鎖」します。一度どこかを折ると、次の骨折リスクが跳ね上がる。だからこそ、最初の1回を防ぐことが何より大切なのです。
出典:Relationship between typical fall patterns and fall-related fractures in older Japanese adults
3. 介護予防=骨折予防、ということ
ここで、この記事でいちばんお伝えしたいメッセージです。
要支援・要介護になる原因を見てみると――
・認知症:16.6%
・脳血管疾患(脳卒中):16.1%
・骨折・転倒:13.9%
・高齢による衰弱:13.2%
・関節疾患:10.2%
「骨折・転倒」と「関節疾患」を合わせた“運動器の障害”は26.3%。なんと認知症や脳卒中を上回り、要介護原因の堂々第1位のグループなのです。
「ピンピンコロリ」で最期まで自分の足で歩くために、避けて通れないのが”転んでも折れない骨”づくりです。介護予防とは、突き詰めれば骨折予防であり、骨粗鬆症予防そのものなのです。
骨粗鬆症は、サルコペニア(筋肉の減少)・フレイル(虚弱)・ロコモティブシンドローム(移動機能の低下)とも深くつながっています。骨・筋肉・バランスは、いわば「転倒・骨折を防ぐチーム」。どれか一つでも弱ると、ドミノ倒しのように崩れていきます。
4. 今日から始める骨粗鬆症予防【食事編】
骨を強くする栄養は、カルシウムだけ摂っていてもダメです。カルシウムを”吸収し””骨に定着させる”ための仲間たちと、チームで摂ることが大切です。
①カルシウム(骨の主材料)
日本人は慢性的に不足気味。
→ 牛乳・乳製品、小魚、小松菜、豆腐・大豆製品
②ビタミンD(腸でのカルシウム吸収を助ける)
これが不足すると、いくらカルシウムを摂っても吸収されません。
→ 鮭、さんま、いわし、干し椎茸、きくらげ
③ビタミンK(吸収したカルシウムを骨に定着させ、質を高める)
→ 納豆、ほうれん草、ブロッコリー、小松菜
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「骨粗鬆症の予防のための食生活」
納豆に小松菜、鮭…。和食は、けっこう”骨に良い”食材の宝庫です。
- 塩分の摂りすぎ…カルシウムを尿と一緒に体の外へ追い出してしまいます。
- リンの摂りすぎ…インスタント食品・スナック菓子・加工肉(ハム・ソーセージ)に多く、カルシウムの吸収を邪魔します。
- お酒の飲みすぎ・カフェインの摂りすぎ・喫煙…カルシウムの吸収を妨げたり、排出を促したりします。特に喫煙は骨折リスクをはっきり高めます。
5. 今日から始める骨粗鬆症予防【運動編】
骨には、おもしろい性質があります。「物理的な刺激(衝撃・負荷)を受けると、それに耐えようとして強く・太くなる」というものです(ウォルフの法則)。
逆に言えば、座りっぱなしで骨に刺激を与えないと、骨はどんどん弱くなります。「骨に縦方向の刺激を与える運動」がカギです。
①ウォーキング
ただ歩くだけでも、かかとが着地する衝撃が骨への良い刺激に。少し大股で、元気よく歩くのがコツです。
②スクワット
太ももの付け根(=いちばん折れてほしくない場所)の骨密度アップに直結。同時に、転倒を防ぐ太ももやお尻の筋肉も鍛えられます。
③かかと落とし
まっすぐ立ち、かかとを上げてから「ストン」と落とすだけ。頭のてっぺんまで衝撃が響き、背骨や太ももの骨に良い刺激になります。
片足立ちやスクワットは、机や手すりに手を添えて行えば安全です。予防運動で転んで骨折…では本末転倒。無理のない範囲で続けましょう。
6.【重要】日光浴の”落とし穴”とビタミンD豆知識
ビタミンDは、食事から摂るだけでなく、日光(紫外線)を浴びることで、皮膚の下でも作られるという、ちょっと変わった栄養素です。ところが、ここに多くの方が知らない大きな落とし穴があります。
「寒いから、いつも窓際の日なたぼっこで済ませている」――そんな方は要注意。実は、ガラス越しの日光浴では、ビタミンDはほとんど作られないのです。あんなにポカポカしているのに、なぜでしょうか。
紫外線には、大きく2種類あります。
・UVB(紫外線B波)…ビタミンDを作る”担当”。しかし窓ガラスにほとんど遮られてしまう。
・UVA(紫外線A波)…ガラスを通り抜けるが、ビタミンDは作れず、シミ・肌の老化の原因になるだけ。
つまりガラス越しの日光浴は、ビタミンDは作れないのに、肌へのダメージだけが残る…という、残念な組み合わせなのです。
ビタミンDを作りたいなら、窓を開ける、あるいは屋外に出て、直接肌に日光を当てることが必要です。日焼け止めをしっかり塗った肌も、UVBがカットされるので同じ理屈で作られにくくなります。
◆ どれくらい日に当たればいいの?
「じゃあ長時間ジリジリ焼かなきゃ…」と思う必要はありません。目安はごく短時間です。
・夏:木陰でも30分程度でも十分
・冬:顔や手に1時間程度
※腕や脚も出せば、当たる面積が増えるぶん、必要な時間は半分ほどに短縮できます。
季節・時間帯・お住まいの地域によって、必要な時間は大きく変わります。実は、国立環境研究所が「その日・その場所で、ビタミンDを作るのに何分日に当たればよいか」を毎日公開しているのをご存じでしょうか。
【便利サイト】お住まいに近い観測地点(例:つくば、札幌、名古屋など)で、日々の”必要日光浴時間”が確認できます。
▶ 国立環境研究所「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」
「日焼けやシミが気になる」という方には、“手のひら日光浴”がおすすめです。手のひらは日焼けやシミになりにくく、それでいてビタミンDはちゃんと作れます。テレビを見ながら、手のひらを太陽に向けるだけでOK。北国の冬や、外に出られない日は、食事とサプリメントで補うことも大切です。
7. そして「検診」を忘れずに(骨密度測定)
食事・運動・日光浴でコツコツ予防。それと並んで大切なのが、「今、自分の骨がどんな状態か」を知ることです。沈黙の病気だからこそ、数字で確かめるしかありません。
骨密度検査(DXA法など)で、痛みもなく調べられます。特に、次に当てはまる方は、一度整形外科などで測ってみることを強くおすすめします。
- 閉経を迎えた女性(50歳以上が目安)
- 70歳以上の男性
- 若い頃より身長が2cm以上縮んだ方
- 背中や腰が曲がってきた、または痛む方
- ご両親が太ももの付け根を骨折したことがある方
- 過去に軽い転倒などで骨折したことがある方
残念ながら、日本の骨粗鬆症検診の受診率は全国平均でわずか5.5%。とても低いのが現状です。「折れる前に見つける」――これが、寝たきりを防ぐいちばんの近道です。
もし検査で「骨密度が若い人の70%未満」など、すでに骨粗鬆症の段階に入っていた場合は、食事や運動だけでなくお薬(内服・注射)による治療が最も強力な武器になります。骨を壊す働きを抑えたり、作る働きを高めたりする良い薬が、近年たくさん登場しています。「歳のせいだから」とあきらめず、ぜひ医師に相談してください。
8. まとめ:折れない骨で、最期まで自分の足で
骨粗鬆症は、静かに進み、ある日突然「骨折」という形で牙をむきます。そしてその一度の骨折が、寝たきり・要介護の入口になりかねません。
- 骨粗鬆症は沈黙の病気。折れる前に対策を。
- 介護予防=骨折予防=骨粗鬆症予防。
- 予防の柱は食事(Ca・ビタミンD・K)・運動(かかと落とし等)・日光浴。
- 日光浴はガラス越しNG、直接が鉄則。手のひら日光浴が手軽。
- 心配な方は骨密度検査を。治療薬という強い味方もある。
「食べて、動いて、お日さまに当たる」。難しいことではありません。今日の小さな一歩が、10年後・20年後の「自分の足で歩ける毎日」を守ります。
元気に長生きして、穏やかに旅立つ――そんな”ピンピンコロリ”の土台は、丈夫な骨から。ぜひ今日から、できることを一つ始めてみてくださいね。
参考資料・一次情報
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団)
- 国立環境研究所 地球環境研究センター「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」
- 厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査の概況(介護の状況)」
※本記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療を目的とするものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
