高齢ドライバーによる重大事故がニュースになるたびに、「うちの親は大丈夫だろうか」と心配になりますよね。小さな子供を轢いてしまうような事故も…世間の風当たりは強くなるばかりです💦
でも一方で、「免許を返したら、もう外出できなくなるんじゃないか」という不安もある。どちらの気持ちも、すごくよくわかります。
この問題は「危ないから返せ」とシンプルに言えないからこそ、難しいんです。
今回は、警察庁・内閣府などの公式データをもとに、一緒に考えてみたいと思います。
・高齢者の免許返納件数の最新データと推移
・「高齢者は事故が多い」は正確か?データの正しい読み方
・免許を返納した後の生活リスク
・返納か継続か、判断のヒント
免許返納、いま何人が返しているの?
まず現状から確認しましょう。
2024年(令和6年)の運転免許自主返納件数は42万7,914件。前年より約4万5千件増え、5年ぶりの増加となりました。(出典:政府広報オンライン/警察庁「運転免許統計」)
ちなみに返納件数のピークは、2019年(令和元年)の60万1,022件。この年、東京・池袋で87歳の高齢ドライバーが母子をはねて死亡させた事故が大きく報道され、社会全体の関心が一気に高まりました。その後はコロナ禍もあり、4年連続で減少していました。
参考:池袋暴走事故
〔図表:警察庁「運転免許の申請取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移」より〕
件数は5年ぶりに増えた。でも「返納率」は5年連続で下がっている
2024年の返納「件数」は5年ぶりに増えました。でも、75歳以上にしぼって「返納率」(免許を持っている人のうち、何%が返したか)を計算すると、まったく逆の景色が見えてきます。
| 年 | 返納件数 (分子) |
75歳以上の保有者数 (分母) |
返納率 |
|---|---|---|---|
| 令和2年(2020) | 29万7,452件 | 590万4,686人 | 5.04% |
| 令和3年(2021) | 27万8,785件 | 609万8,474人 | 4.57% |
| 令和4年(2022) | 27万3,206件 | 666万5,052人 | 4.10% |
| 令和5年(2023) | 26万1,569件 | 728万2,757人 | 3.59% |
| 令和6年(2024) | 26万4,916件 | 789万7,762人 | 3.35% |
(出典:分子=警察庁「運転免許の申請取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移」/分母=警察庁「運転免許統計」令和2・4・6年版〔各年末の年齢別保有者数〕。返納率は両者から筆者算出)
そもそも免許を持っている高齢者自体が増え続けており、2024年時点で65歳以上の半数以上、75歳以上の4割近くが運転免許を保有しています。(出典:ニッセイ基礎研究所「2024年の高齢ドライバーの免許返納」/警察庁「運転免許統計」各年版)
そしてもう一つ、本人の意識の問題があります。調査によれば、70代でも9割弱が「免許返納を考えたことがない」と回答しています。(出典:高齢者の自動車運転に関する実態と意識について~アンケート調査結果より〔2024年版〕)
返してしまうといろいろ不便だったり、自分は大丈夫だと思ってしまったり…
たしかに高齢になると近くのバス停までの移動も難しくなります。また、そもそもバスがない、タクシー運転手は人手不足で呼んでも来ない、という状況が地方では常態化しています。
だからこそ「返す・返さない」の二択を迫るより、地方であれば代替の移動手段を地域でどう用意するかを一緒に考えることが、これからますます大事になります。
国はAIを活用したオンデマンド型地域公共交通システム構築プロジェクトを推し進めており、採用している自治体もだいぶ増えてきました。乗り合いのAIバスで効率的なルートを算出し効率化を図ったりすることができます。
ただし、利用時間の制約があったり、高齢の方には使うことが難しかったりという問題もあります。
そもそも先行研究では免許を返納してしまうと「フレイル」等の「リスク」が高まることが示唆されています。これについてはあとで説明します。
高齢者ドライバーは本当に「危険」なのか?データを正確に読む
「高齢者の事故が多い」というイメージ、よく耳にしますよね。でも、このデータには正確な読み方が必要です。
まず大前提:交通事故全体は減っている
2024年の交通事故件数は29万895件、死者数は2,663人。統計が残る1948年以来、2番目に少ない死者数です。(出典:内閣府「令和7年交通安全白書」)
安全技術の進歩や道路整備の効果で、日本全体の交通事故は長期的に減少しています。
「高齢者の死者数」には2つの意味がある
「2024年の交通事故死者のうち65歳以上は1,513人(全体の56.8%)」という数字があります。
(出典:内閣府「令和7年交通安全白書」第2節)
① 歩行中・自転車乗車中にひかれた高齢者(被害者側)
→ 高齢者は体が弱く、一度の事故で亡くなりやすい。これは「高齢者が危険なドライバー」ではなく「高齢者が交通弱者」であることを示す数字です。
② 高齢ドライバーが運転中に事故を起こした(加害者・当事者側)
→ こちらが「免許返納」の議論に直接つながるデータです。
内閣府「令和7年交通安全白書」によれば、65歳以上の交通事故死者のうち「歩行中」が最も多く、年齢が高いほど歩行中の死者数が突出しています。特に80歳以上の歩行中死者数は全年齢平均の約3.9倍にのぼります。(出典:内閣府「令和7年交通安全白書 第2節」)
では「高齢ドライバーの事故率」は実際どうなのか
ここからは、高齢ドライバーに絞ったお話です。
内閣府「令和6年交通安全白書」では、免許を持っている人の数に対して何件の死亡事故を起こしているか、という「事故率」が公表されています。(出典:内閣府「令和6年交通安全白書 第3節」)
・全年齢平均:2.87件
・65〜69歳:3.18件
・70〜74歳:2.92件
・75〜79歳:4.19件
・80〜84歳:5.67件
・85歳以上:9.75件(全年齢の約3.4倍)
75歳以上のドライバーによる死亡事故では、「操作不適」(アクセルとブレーキの踏み間違いなど)が最も多く、75歳未満の約3.1倍に達します。(出典:警察庁「令和7年における交通事故の発生状況」)
高速道路の逆走事例も大変危険ですね💦
〈2024年の逆走した運転者の年齢〉
2024.1〜2024.12 計(全220件の内訳)
長期的には「改善」しているが・・・
見落とされがちなポイントとして、高齢ドライバーの事故率は長期的には大幅に改善しています。
たとえば85歳以上の死亡事故件数は、平成25年(2013年)の20.26件から令和5年(2023年)の9.75件へと、10年でほぼ半減しています。サポカー(衝突被害軽減ブレーキ搭載車)の普及や、認知機能検査の強化などが効果を上げていると考えられます。
しかし、運転頻度が少ないわりに死亡事故が最多ということはやはり考えなければなりませんね。
😰
免許を「返してもらう」だけが答えではない
返納後の生活リスクも知っておいてほしいことです。
国立長寿医療研究センターの調査によると、運転をやめた高齢者が要介護状態になるリスクは、運転を続けている人の約8倍という結果が出ています。
(出典:国立長寿医療研究センター)
それでも見落とせない事実として、代替の移動手段がない高齢者が運転をやめると、外出機会が減少することは複数の研究で確認されています。
外出が減ると:
- 筋力・体力が低下しやすくなる
- 社会とのつながりが薄れ、認知機能が低下しやすくなる
- 買い物・通院が困難になり、生活の質が落ちる
特に、公共交通が乏しい地方では深刻な問題です。車がないと生活が成り立たないケースも少なくありません。
「返納を促す前に、代替手段を一緒に考える」という順序が大切だと思います。
「いつ返すか」を考えるためのヒント
制度として知っておきたいこともあります。
・認知機能検査(記憶・判断力の簡易テスト)
・高齢者講習(実車を使った運転能力確認)
・認知症のおそれありと判定された場合 → 医師の診断が必要
(2022年5月施行 改正道路交通法)
サポートカー限定免許という選択肢
2022年の道路交通法改正で、「サポートカー限定免許」という制度も始まりました。衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い急発進抑制装置が搭載された車(サポカーS)のみを運転できる免許です。
出典:NISSAN
「全部は返せないけど、リスクを減らしながら続けたい」という方への選択肢になります。
こんなサインが出てきたら、見直しのタイミング
「返すか・続けるか」の二択で追い詰めるより、「今の運転能力を客観的に確認する」ことを勧めてみてください。高齢者講習のほか、一部の自動車学校では有料の個別運転診断も行っています。
まとめ
・2024年の返納件数は42万7,914件で5年ぶりに増加。ただし75歳以上の返納率は5.04%(令和2年)→3.35%(令和6年)と5年連続で低下している。件数増加の正体は高齢ドライバーの母数増(+33.8%)であり、「返す人の割合」はむしろ下がり続けている。
・「高齢者の交通事故死者が多い」には2つの意味がある。①ひかれた被害者、②ドライバーとしての加害者。混同しないことが大切。
・75〜84歳のドライバーの死亡事故率は全年齢平均の約1.5〜2倍、85歳以上は約3.4倍。ただし長期的には大幅に改善している。
・免許返納後は外出機会が減り、要介護リスクが上がる可能性がある(ただし交絡に注意)。特に地方では代替手段の確保が先決。
・「返すか・続けるか」の二択より、「運転能力を客観的に確認する」ことが建設的な一歩。
大切な家族の安全も、生活の質も、どちらも守りたい——。そのジレンマを抱えながら、一歩ずつ考えていけたらと思います。
この記事が、ご家族での話し合いのきっかけになれば幸いです。
参考・出典
- 政府広報オンライン/警察庁「運転免許統計」(2024年の返納件数・5年ぶり増加)
- 警察庁「運転免許の申請取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移」(返納件数)
- 警察庁「運転免許統計」令和2・4・6年版(年齢別免許保有者数=返納率の分母)
- 内閣府「令和7年交通安全白書 第2節」(2024年の死者数・65歳以上の死者割合・歩行中死者)
- 内閣府「令和6年交通安全白書 第3節」(免許保有者10万人あたり死亡事故件数・年齢層別)
- 警察庁「令和7年における交通事故の発生状況」(75歳以上の操作不適による死亡事故)
- 国立長寿医療研究センター(運転中止と要介護リスク。※相関であり因果ではない点に留意)
- ニッセイ基礎研究所「2024年の高齢ドライバーの免許返納」(高齢者の免許保有率)
- MS&ADインターリスク総研「高齢者の自動車運転に関する実態と意識について」(2024年版)(70代の返納意識)
