介護予防

介護予防はなぜ必要?健康寿命と自立から考える

「最近、親があまり外に出なくなった」

「まだ介護は必要ないけれど、このままで大丈夫だろうか……」

親御さんが70代、80代になってくると、そんなことを考える機会が増えてくるかもしれません。

実は「介護予防」については、介護保険法の中にも明確に位置づけられています。

まずは結論!今日のぴんころポイント🐢
  1. 介護予防は、介護保険法でも国民の「努力」として位置づけられている
  2. 介護予防とは「絶対に介護にならないこと」ではなく、要介護になる時期を遅らせ、悪化を防ぐことも含まれる
  3. これからは高齢者が増える一方、介護を支える人材は限られていく
  4. 大切なのは、病気の有無よりも「できること・選べる生活」をできるだけ長く保つこと

2025年、日本の65歳以上人口は3,622万人、高齢化率29.4%となりました。

すでに日本は、およそ3~4人に1人が65歳以上の社会です。

出典:内閣府「令和8年版高齢社会白書」

ただし、「年を取ったら介護になる」と過度に恐れる必要はありません。

要介護になるかどうかを完全にコントロールすることはできませんが、元気なうちからできることはあります。

そして、たとえ介護が必要になっても「自立した生活」がそこで終わるわけではありません。

この記事では、これからの日本でなぜ介護予防が重要なのか、そして私たちは何を目指せばよいのかを考えていきます。

介護予防は、「絶対に介護にならないための努力」ではありません。今ある力を使って、自分らしい生活をできるだけ長く続けるための取り組みです。

介護予防は法律にも書かれている

実は介護保険法には、次のような条文があります。

介護保険法 第4条(国民の努力及び義務)

国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする。

出典:e-Gov法令検索「介護保険法」

ただし、ここで注意したいことがあります。

介護保険法第4条は、罰則を伴って「介護予防をしなければならない」と強制する規定ではありません。国民に求められている努力として位置づけられています。

そして介護保険法には、国民側だけでなく国や地方自治体側の責務も定められています。

介護予防は、

「本人がちゃんと運動しなかったから悪い」

という自己責任の話ではありません。

本人、家族、地域、行政、医療・介護専門職などが、それぞれの立場から支えていく必要があります。

また、第1条では介護保険制度の目的として、要介護状態になった場合でも「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」支援することが示されています。

ここは非常に大切な部分です。

介護が必要になっても、「自立」は終わりではありません。

なぜ今、介護予防がこれほど重要なのか

日本が高齢社会であることは、もう誰もが知っていると思います。

しかし問題は、単純に「高齢者が多い」ことだけではありません。

2025年には、

  • 65歳以上:3,622万人
  • 総人口に占める割合:29.4%
  • 75歳以上:2,127万人
  • 総人口に占める割合:17.3%

となっています。

さらに2040年には、高齢化率が約34.8%まで上昇すると推計されています。

出典:内閣府「令和8年版高齢社会白書」

特に重要なのが85歳以上の人口です。

厚生労働省は、介護ニーズが高くなりやすい85歳以上人口について、2035年頃まで増え続けると見込んでいます。

一方で、介護や医療を支える中心となる生産年齢人口は減っていきます。

つまり、これからの日本は、

介護を必要とする可能性が高い人は増える一方、それを支える側の人数は減っていく社会になります。

介護職員を増やすだけでは追いつかない可能性がある

厚生労働省の推計では、介護サービス需要に対応するために必要となる介護職員数は、

年度 必要な介護職員数
2026年度 約240万人
2040年度 約272万人

と見込まれています。

出典:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」

一方、2024年10月時点の介護職員数は約212.6万人でした。

前年からの増加はわずか487人です。

出典:厚生労働省「令和6年介護サービス施設・事業所調査」

ただし、「2040年には57万人不足する」と単純に読むことはできません。

必要数は将来推計であり、今後の人材確保や制度変更、テクノロジーの活用などによって状況は変わります。

それでも、

「介護が必要になってから誰かにすべて支えてもらう」という仕組みだけでは、社会全体として厳しくなる

ことは想像できます。

だからこそ、できるだけ自分の能力を保ち続ける「介護予防」と「自立支援」が重要になります。

長生きする時代だからこそ「健康寿命」を考える

以前は「長生きすること」そのものが大きな目標だったかもしれません。

しかし、日本は世界でも長寿の国となりました。

そこで最近重視されているのが健康寿命です。

健康寿命とは、

「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」

を意味します。

2022年の日本では、

平均寿命 健康寿命
男性 81.05歳 72.57歳
女性 87.09歳 75.45歳

となっています。

平均寿命との差は、男性約8.5年、女性約11.6年です。

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「健康寿命」

この8~12年を「介護される期間」と説明するのは正確ではありません。健康寿命は「日常生活に健康上の制限があるか」を基に計算する指標であり、要介護期間とは異なります。

大切なのは数字そのものではなく、

何歳まで生きるかだけでなく、どのように生きるかが重要になっている

ということだと思います。

要介護になる原因には、対策できるものもある

2025年の国民生活基礎調査では、介護が必要になった主な原因は、

順位 主な原因 割合
1 認知症 16.7%
2 高齢による衰弱 15.6%
3 骨折・転倒 14.6%

でした。

出典:厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査」

認知症や病気、事故などをすべて防ぐことはできません。

しかし、

  • 身体活動の低下
  • 筋力やバランス能力の低下
  • 転倒
  • 低栄養
  • 口腔機能の低下
  • 生活習慣病
  • 社会とのつながりの減少

など、生活の中で対策できる部分もあります。

厚生労働省も介護予防について、

「要介護状態の発生をできる限り防ぐ、または遅らせること」だけでなく、「要介護状態になっても悪化をできる限り防ぎ、軽減を目指すこと」

まで含めて説明しています。

出典:厚生労働省「介護予防について」

▶ 関連記事:要介護になる原因ランキング|介護の入り口と予防法

介護予防は「筋トレ」だけではない

介護予防というと、

「スクワットをしましょう」

「毎日歩きましょう」

といった運動を思い浮かべる方が多いと思います。

もちろん運動は重要です。

厚生労働省の「身体活動・運動ガイド2023」でも、高齢者に対して、歩行などの日常的な身体活動に加え、筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた運動が推奨されています。

出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 高齢者版」

しかし、現在の介護予防はそれだけではありません。

厚生労働省は、

心身機能・活動・参加

のそれぞれに働きかけることを重視しています。

たとえば、

  • 自分で買い物に行く
  • 料理をする
  • 掃除や庭仕事をする
  • 友人に会う
  • 趣味を続ける
  • 地域活動に参加する
  • 仕事を続ける
  • 家族の中で役割を持つ

これらも大切な「活動」「参加」です。

筋力をつけることが目的ではなく、その筋力を使って生活することが目的です。

理学療法士として高齢者の方と関わっていると、

「歩く練習はしたくないけれど、孫と買い物には行きたい」

という方は珍しくありません。

その人にとって大切なのは「歩行訓練そのもの」ではありません。

行きたい場所へ行けることです。

介護予防では「何の運動をするか」だけでなく、「その人が何を続けたいのか」を考えることが重要です。運動は目的ではなく、生活を続けるための手段と考えてみてください。

今日からできる介護予防6つ

介護予防は特別なことを始めなければならないわけではありません。

まずは現在の生活をできるだけ維持することから始めてください。

1.今より少し多く動く

散歩だけでなく、買い物、掃除、洗濯、庭仕事なども身体活動です。

座っている時間が長い人は、まず立つ機会を増やすだけでも構いません。

2.筋力とバランス能力を保つ

歩くことに加え、立ち座り、階段、軽い筋力トレーニングなどを取り入れます。

転倒歴がある場合や身体機能が低下している場合は、医師や理学療法士などに相談してください。

3.食事量を極端に減らさない

高齢になると、「太らないこと」だけでなく低栄養を防ぐ視点が重要になります。

体重減少や食事量の減少にも注意しましょう。

4.歯と口の機能を守る

噛みにくい、むせる、口が乾くなどの変化を放置しないことも大切です。

食事や栄養と口腔機能は密接に関係します。

5.外とのつながりを切らさない

地域活動、趣味、友人との交流、仕事など、形は何でも構いません。

日本の高齢者を対象とした研究でも、複数の社会活動に参加している人ほど、その後の機能障害が少ないという関連が報告されています。

ただし観察研究のため、「社会参加をすれば必ず介護を予防できる」とまでは言えません。

参考:Kanamori S, et al. Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese.

6.「全部自分でやる」ことにこだわらない

ここは意外と重要です。

杖を使う。

手すりをつける。

宅配を利用する。

家族に手伝ってもらう。

介護サービスを利用する。

助けを借りることと、自立していないことは同じではありません。

必要な支援を使うことで、むしろ自分でできる生活を長く続けられる場合があります。

ピンピンコロリの意味も変わってきている

「人間五十年」と言われた時代から考えれば、現在は本当に長寿の時代になりました。

ただ、すべての人が病気ひとつなく、最期の日まで元気に過ごせるわけではありません。

脳卒中になる人もいます。

認知症になる人もいます。

骨折する人もいます。

介護が必要になる人もいます。

だから私は、「ピンピンコロリ」をもう少し広く考えてもよいのではないかと思っています。

病気があっても、支援を受けていても、自分のできることを続け、自分の生活をできるだけ自分で選ぶ。

それも一つの「ぴんぴん」ではないでしょうか。

介護が必要になっても、介護予防は終わらない

介護予防という言葉には、

「まだ元気な高齢者がやるもの」

というイメージがあります。

しかし、介護保険法第4条にもあるように、介護が必要になった後も能力の維持・向上は重要です。

たとえば、

「トイレだけは自分で行きたい」

「自宅のお風呂に入りたい」

「近所のスーパーまで買い物に行きたい」

「孫の結婚式に出たい」

人によって目標は違います。

必要な介護サービスやリハビリ、福祉用具などを利用しながら、その人が持っている能力を使って生活していく。

これも立派な介護予防です。

▶ 関連記事:介護が必要になったら、介護保険サービスを使おう!

そして介護を家族だけで抱え込まないことも重要です。

2025年の国民生活基礎調査では、同居して介護している「要介護者等」と「主な介護者」の組み合わせのうち、双方が65歳以上だった割合は61.9%、双方が75歳以上も37.1%でした。

出典:厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査」

介護する家族自身が高齢という家庭も珍しくありません。

▶ 関連記事:仕事を辞める前に知っておきたい「介護離職」と仕事・介護の両立

まとめ|目指したいのは「介護ゼロ」ではなく、自分らしく暮らせる時間を延ばすこと

今回のポイントをまとめます。

  • 介護保険法では、国民にも介護予防や能力維持への努力が位置づけられている
  • 一方で国や自治体にも、自立した生活を支える責務がある
  • 日本では高齢化がさらに進み、85歳以上人口も今後増えていく
  • 介護予防は「介護にならないこと」だけでなく、要介護になる時期を遅らせたり悪化を防いだりすることも含む
  • 運動だけでなく、栄養、口腔、生活活動、社会参加などを総合的に考える
  • 介護が必要になっても、自分の能力を生かして暮らすことはできる

人間は、要介護になるか・ならないかを完全に選ぶことはできません。

だからこそ、

「介護にならないこと」だけを人生の目標にする必要はない

と私は思います。

できるだけ長く歩く。

好きな場所へ行く。

食べたいものを食べる。

人と会う。

自分の役割を持つ。

そして必要になったときには、人やサービスの力も借りる。

介護予防の目的は、単に寿命を延ばすことではありません。「自分の生活を、自分で選べる時間」をできるだけ長くすること。まずは、今続けている日常生活を一つでも長く続けることから始めてみてください。

参考文献・出典

本記事は、厚生労働省・内閣府などの公的情報および研究報告をもとに、現役理学療法士が一般向けに執筆しています。健康状態や介護サービスの利用については個人差があります。具体的な運動や治療、介護サービスの利用判断については、医師・理学療法士・ケアマネジャー・地域包括支援センターなどの専門機関へご相談ください。